ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

又吉直樹「人間」(毎日新聞出版)

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又吉さん最新作。今までで一番の長編で、360ページ超え。三作目という

ことで、どういう主題を選んで来るのかなーと思ったんですが、タイトル

『人間』という、結構直球な主題で来たので、期待していたんですが・・・

むぅ。これは、正直に云って、とても期待外れでした。今までの二作は、

純文学よりとはいえ、きちんとストーリーがあったので、面白く読めて

いました。でも、これは酷い。全然、一貫したストーリー性がない。章が変わる

度に話が全然違う方向に進んで行くし、突然意味不明なファンタジー要素が

入って来たりするし、何が何やらわけがわからない。何が書きたいのか、さっぱり

見えて来なかった。文章力とか、描写力はさすがに光るものを随所に感じた

だけに、とても残念でならないです。これを担当した編集者は、一体この散漫な

物語を、どう受け取って出版OKを出したのだろう。主人公永山の住む

シェアハウスでの、様々な嫉妬が渦巻くどろどろな人間模様を描いた中盤

くらいまでは、それなりに面白く読めていたので、そこをもっと突き詰めて行く

お話にしていたら、こんなことにはならなかったんじゃないかと思うのだけど。

その数年後、シェアハウスの元住人同士である、影島と仲野のネット上の論争が

勃発。影島がなぜ仲野をあそこまで攻撃したのかもよくわからないし、仲野の

反論文章も、ネット上で載せるにはあまりにも長い。中身も退屈で、永山が

どこまでこれが続くのか確かめるために思わずスクロールしたように、私も

一体どれだけのページ続くんだろう、と思わず先のページを確認してしまった。

そこの解決も有耶無耶なまま、永山と影島がバーで再会。論争の件も含めて、

本音で語り合って、なぜか旧交を深めあう話に。で、仲野はどうなった?と

ツッコミたくなりました。

そこから一年後、最後に舞台は沖縄に飛んで、永山の家族との話に移行していく。

それぞれのパートで、前後の繋がりがほとんど全くないのが問題。出て来る

それぞれのエピソードに、必然性が感じられないんです。思いつきでどんどん

書き進めて行っただけの話って感じで。全く、小説の体を成していないから、

読んでも読んでも内容が頭に入って来ないし、残るものも何もなかったです。

どうしてこうなったんだろう。今までの作品は、きちんと一貫したストーリーが

あったと思う。新聞連載だったせいかのかな。改めて通して読んで、又吉さんは

どう感じたんだろうか。これでいいと思ったとしたら、小説家としては

どうなんだろう。このストーリーで、読者がついて来れると思ったとしたら、

ちょっと小説をなめているのではとさえ思ってしまう。起承転結を全く無視した

構成になっているのもどうなのかと。別にきっちり起承転結で書けって言ってる

訳じゃないんですよ。でも、せめて、起と結くらいしっかり書いてもらわないと。

永山の物語が何ひとつ完結していないし、途中に出て来た伏線らしきものも

全く回収もされていない。?しか残らなかった。

途中で、めぐみが二股かけていた飯島が亡くなっているという情報が出て来るの

ですが、結構重要な要素だと思うのに、その詳細も全く語られないままだし、

永山の前に現れためぐみが突然カスミになる場面も、突然過ぎて、意味不明だったし。

めぐみの幻影がカスミの幻影に変わったのか、どちらかは現実の出来事だったのか、

それとも時系列が違うのか、その辺りの書き分けも全くできていないのは致命的。

もしかして、永山は薬でもやっているのでは?と勘繰ったりもしたけど、

そういうのもなさそうだし。意味深な要素が次々出て来るのに、丸投げで

終わるって。

人間の内面描写はさすがによく描けているな、とは思ったのですが、小説

が書けているとはとても言い難い。三つのパート、それぞれ全く別の又吉さん

が書いていたんじゃないかとさえ思ってしまう。

永山とナカノタイチは、どちらも又吉さんご自身が反映されているのだろう

と思いました。かなり、ご自身を自虐している風でもありましたし。

小説家として有名になってしまったが故に、芸人としての自分と小説家

としての自分との世間の評価のズレや温度差に、いろいろと思うところが

あるのだとは思う。

だから、ご自身を含めた『人間』が書きたかった、というのもわかるのだけれど。

それでも、個人的に、これは商業ベースに載せていい小説だとは思えなかった。

小説の体をなしていないもの。ただ、思いつきの文章や出来事を並べただけで

しかない。人物造形も酷いキャラばかりだし。魅力的な人物がほとんど出て

来なかった。

永山のキャラなんか、前作の『劇場』の永田とほとんど変わらない印象だったし

(名前まで似てる・・・)。女性に対する言動なんかもそっくりで、どうにも

好きになれなかったです。

うーん、うーん・・・。これを絶賛している人もいるのかなぁ。私の読み取り

不足なだけなんだろうか。

でも、きちんと物語として成立させなければ、この先読者はついて来ないのでは

ないかと思う。次の作品が、又吉さんの小説家としての正念場になるんじゃ

ないでしょうか。

又吉さんの文章のファンだっただけに、この作品には本当にがっかりでした。

残念感が大きいせいか、いつもより余計に黒べるこになってしまった。

すみません・・・。