ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

歌田年「紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人」(宝島社)

f:id:belarbre820:20201119193852j:plain

第18回このミステリーがすごい!大賞』大賞受賞作。個人的に、このミス大賞

系の作品とは相性が悪いので、最近ではほとんど読むことはないのだけれど、

これは設定が面白そうだったので読んでみたいと思って予約してありました。結構

話題になっていたので、だいぶ待たされましたね。もう半ば予約してたことも忘れ

かけてましたよ・・・^^;

でも、うん。面白かったです。待たされた甲斐はあったかも。久しぶりにこのミス系

作品の当たりに出会った感じ。所々ツッコミ所はありますけど、紙鑑定士という

聞き慣れない職業の主人公と、世捨て人みたいなプラモデル造形家の土生井、

二人のキャラが作品に生きていて良かったです。紙のプロである主人公渡部の特技に

ちなんで、装丁もかなり凝っていて、章ごとに違う紙を使って製本してあったりする

ところも面白い。渡部が、ちょこちょこ紙に纏わる薀蓄を会話に挟んで来る辺りは、

若干の鬱陶しさも感じつつ、そのマニアックさに感心させられたり。ただ、なぜか

紙鑑定士という職業なのに、仕事の依頼がプラモデルに関してばかりというのは

このタイトルを掲げておいて、ちょっとどうなんだ?とは思いましたが。結局、

依頼人は渡部を頼って依頼してくれたのに、謎を解くのはプラモデラーの土生井って

いう。

まぁ、足を使って捜査するのは渡部で、頭を使うのは土生井っていう役割分担に

したとも云えそうですけど。でも、もうちょっと紙鑑定士っていう職業を生かした

事件にしても良かったんじゃないのかなーとは思いました。まぁ、事件とはあまり

関係ないところで、ちょこちょこ紙鑑定士としての矜持が伺えるシーンも盛り

込まれていたからいいのかな。

失踪した妹の部屋に残されていたミニチュアハウスを手がかりに、彼女の行方を

辿って行く、という展開はなかなか面白かったです。ミニチュアハウスのモデル

になった家を、グーグルマップで探し出す辺りは、今どきのツールを上手く使って

いるなぁと感心。しかも、そこに写っている写真から、犯罪の痕跡を見つけ出す

ってのも、なかなかすごい。確かに、実際グーグルマップの写真から沈んだ車を

発見し、その車から行方不明の人物が見つかった、というニュースを目にした

記憶がありますし、あり得ないことではないですよね。

終盤、ちょっと駆け足になった感は否めませんが、スリリングな展開にぐいぐい

読まされましたし、ラストのカーチェイスも疾走感あって良かったと思います

(いろいろ、ツッコミたいところでもありますけど・・・)。渡部の元カノ、

真理子さんのキャラは強烈ですね。なんだかんだ言って、真理子さんは渡部の

ことがずっと気になっていたのでしょうね。渡部の仕事が有利になるように

陰で口利きしてあげてたりしたみたいだし。もちろん、渡部だって未練たらたら

でしたけどね(笑)。ラストの二人の関係の変化にはびっくりしましたけど。

こうやって、だんだん元サヤに戻って行くのかな(笑)。

渡部と土生井のデコボココンビも気に入りました。渡部に教えられて、土生井が

だんだんスマホやインターネットの機能に詳しくなっていくところが面白かった。

お互いにお互いを『先生』だと思ってリスペクトしている関係がいいな、と

思いましたね。これはぜひまた続きを書いて頂きたいな。まだまだ荒削りな感じも

しますけど、今後の活躍に期待したいです。