ミステリ読書録

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三浦しをん「マナーはいらない 小説の書き方講座」(集英社)

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作者がコバルト短編小説新人賞の選考委員をやっていた関係で、Webマガジンの

コバルト上に掲載された、小説を書く人に向けたプチアドバイスを一冊にまとめた

もの。

特に小説を書こうとも書きたいとも思ったことはないのですが、しをんさんの

文章が読みたいので借りてみました。

何度も、これって小説を書くに当たってのアドバイスだったよね?と確認したく

なってしまった。だって、アドバイスそっちのけで、ハイロー(注:映画『HiGH

&LOW』のこと。しをんさんは数年前からザイル系にドハマりしている)について

熱く語ったり、それ以外にもちょいちょい脱線しまくるんだもの。まぁ、そこが

面白いんだけど(笑)。ちょいちょい自作の宣伝が入ったり、自虐が入ったり。

相変わらずの一人ノリツッコミが可笑しくて可笑しくて。やっぱり、しをんさん

の文章を読むのは楽しいなぁ。単純にエッセイのような感覚で読めちゃいました。

ただ、もちろん、そこはプロの小説家の面目躍如。小説を書くに当たっての、

ためになるアドバイスも満載。一冊の章立てをフレンチのフルコースに見立てて、

一章を一皿として構成しているところも一工夫あって面白い。全部で24皿も

あるので、そんなに食えるかー!って感じではあるけれど(と、ご本人も冒頭の

まえがきで自虐されていた)。

ちなみに間にちょこちょこ挟まっている書き下ろしのコラムは『お口直し』という

設定だそうな。

小説を書く気はないけど、小説ってこうやって出来ているんだなー、小説家の人

って大変だなーと思いながら読みました。短編は『序破急』が大事とか、長編

は構成力が鍵だとか。あとは一人称とか三人称とかの人称についての章は、小説

読む上でもすごく参考になりました。文章例が出てるから、すごくわかりやす

かったし。そうか、なるほど~って感じ。一人称と三人称だけならわかりやすい

けど、三人称でも単一視点と複数視点があるってところまでは、あんまり意識して

読んでなかったです。一人称小説っていうと、私の中では新井素子さんって感じ

なんですよね。中学生でハマって読んでたんですけど、『あたし』視点の文章

っていうのが当時すごく新鮮だった覚えがあります。一人称の小説は本人の心理描写

とかが中心だから、すごく読みやすいってイメージ。でも、確かにその反面、

独りよがりになりがちではあるな、と思い返しました。その分主人公には寄り添える

し共感もできやすいけど、それ以外の登場人物とは距離ができるし。客観視出来ない

分、描写に限度もある訳で。一人称は諸刃の剣でもあるんだな。三人称は三人称で

長所も短所もあるし。視点を何にするかで全く違った小説になるっていうのは、

まぁ、当たり前のことではあるのだけれども、改めて勉強になりました。

登場人物のセリフに関しての章も興味深かった。現実の会話と小説の会話の違いとか。

言われてみれば~って感じ。小説を映像化する際に、小説の会話文とは微妙に違った

セリフになっていることがほとんどですよね。実際口に出す言葉と小説の会話では

やっぱり全然違うものなんだな、と再認識させられました。しをんさんがおっしゃる、

『現実の会話は、決して理路整然としていない』というのは、全くその通りだと

思いました。

アミューズブッシュとして一皿目に出て来るのは『推敲』。投稿作品の中には、

この、『推敲』を全くしていないのではと思われるものが多いのだそう。私も、

一応このブログの記事は一通り書き終えたら下書き保存しておいて、投稿時に

プレビュー画面で推敲した上で公開するようにしています。ただ、時間がないと

ろくに読み返さずに公開しちゃってるけど^^;たまに、何なのこの文章!?

って思うようなわけわかんない文章書いてる時もあったりして。文章が破綻

していたり。誤字脱字はもちろんですけど。伝えたいことが巧く文章にならなくて

もどかしく思うこともしばしば(っていうか、ほとんどがそうのような気も^^;)。

私のブログなんかは単なる本の感想だけど、小説書くとなったら、もっともっと

構成力も文章力もなきゃいけないわけで。誰が読んでも理解できる文章ってほんと

難しい。かといって、全部を全部説明するとくどくなるし。ある部分までは説明

して、あとは読者の想像に委ねるように書かなきゃいけないとか、もう想像を絶する

世界です。まぁ、その辺りの技量は各小説家さんによって様々なのでしょうけども。

こういう指南書を読むことで、改めて、小説家って偉大だなぁと思わされたのでした。