昨年度の本屋大賞を受賞された凪良さんの作品。本屋大賞を獲った『流浪の月』
は、あまりにも予約数が多すぎて予約を諦めましたが、こちらは早めに予約して
おいたのでそこまで待たされず回って来ました(といっても、そこそこは待った
けれど)。
うん、巷でこの方が評価されてる理由がなんとなくわかりました。私も好きだな、
この世界観。なんとなくイメージ的にもう少し耽美で退廃的な作風なのかな、と
少し身構えて読み始めたのだけれど、全然違ってました。すごく読みやすい。
けど、文章がすっと心に入って来る。美辞麗句を並べ立てるとかは全然ないけど、
独特の美しい世界観がある感じ。マンションの屋上にある神社(縁切り神社だけど
^^;)と美しい庭園という設定も素敵でしたね。
少し歪だけど、優しい絆で結ばれた家族を描いた作品。主要な登場人物は三人。
マンションのオーナー兼屋上にある縁切り神社の神主・統理、統理の元妻と
再婚相手との間に出来た子供・百音、統理の学生時代からの親友でゲイの路有。
統理と百音に血縁関係はないけれど、元妻とその再婚相手が事故で亡くなり、
孤児となった百音を引き取って一緒に住んでいる。周りはいろいろ噂をするけれど、
当の二人は至って仲良く暮らしている。二人の隣の部屋に住む路有は、キッチン
カーで屋台バーをやっていて、昼夜逆転生活。朝、統理と百音の部屋に来て、朝食
(路有にとっては夜食)を三人で食べるのが日課になっている。マイノリティな
三人の生活は、他人から見れば歪なのかもしれないが、当人たちにとっては普通の
日常なのだ――。
他にも、高校時代に恋人を亡くして以来、独身を貫く40歳の桃子や、うつを
発症してしまった桃子の元恋人の弟・基など、日常に鬱屈を抱える人々が屋上の
縁切り神社へやって来て、統理や百音の言葉で癒やされ、鬱屈から縁を切って
新しい一歩を踏み出して行く。ままならない日常を生きていても、こういう憩いの
場所があると心が救われますね。
桃子の亡くなった恋人とのエピソードは切なかったなぁ。不幸な事故さえなければ、
きっと順調に結婚して、子を産んで、幸せな結婚生活を送っていたのではないのかな。
アラフォーの女性が、高校生の頃の恋愛を引きずるって、傍から見るとものすごい
痛い人に見られそうだけど、なんか気持ちはわかる気がするなぁ。若い頃の恋愛って、
すごくきらきらしてて、その時のドキドキワクワクした感じって、大人になって
からの恋愛とは全然違うものなんじゃないのかな。しかも、桃子は幸せの絶頂の時に
彼を亡くしている訳で。あんな別れ方したら、そりゃ引きずるよなぁとやるせない
気持ちになりました。新しい恋を見つけて幸せになってほしい気持ちもあるけど
(例えば基だって、ありといえば、ありなのではと思うし)、桃子の選択も、彼女
にとってはそれが幸せなら、母親は尊重してあげて欲しいなぁと思いました。
路有の元彼に関しては、勝手過ぎて腹立たしいとしか思わなかったです。路有を
どん底まで突き落とすような振り方したくせに、突然、会いに来いとばかりに葉書を
寄越して来るなんて。でも、無視出来ずに会いに行っちゃう路有もお人好しすぎると
思いましたが。結果、はっきり過去の恋に決着つけられて良かったですけどね。
新しい恋人とはいい恋が出来るといいな。
統理と百音の関係はとてもいいな、と思いました。百音があんなに良い子に育った
のは、統理のおかげだと思う。統理自身の内面描写ってほとんど出て来ていないし、
もともと飄々としていて寡黙なタイプなので、なかなか掴みどころのない人では
あるけれど、百音や路有に対する言動で、とても愛情深くて温かい人なのは伝わって
来ましたから。三人が、年齢とか性別とか関係なく、対等な関係にあって、それぞれ
に助け合って暮らしているところが良かったです。血縁関係はなくても、家族よりも
親しく深い関係なんじゃないのかな。なんだか羨ましいな、と思いました。
屋上の美しい庭の様子が素敵だった。表紙では薔薇がたくさん咲いている絵になって
いるけど、作中に薔薇が植えられているという描写はなかったような・・・。
記事を書くに当たってネット検索してて初めて知ったのですが、凪良さんって、
もともとBL小説畑の方なんですね。路有のキャラ設定はその辺りから来ている
のかぁ、と納得。結構そっち系の小説もたくさん出されているようで。
そっちはそっちで気になったりして(笑)。
まぁ、それはともかく(笑)、今後注目したい作家さんの一人になったのは
間違いないです。本屋大賞のはいつ読めるかわかんないけど^^;