六人のミステリー作家によるアンソロジー。執筆陣が好きな作家ばかりだったので、
借りてみました。大山さんや有栖川さんのシリーズ新作が読めたのは嬉しかったな。
特に有栖川さんのは・・・ミステリファンなら飛び上がって喜ぶのでは。内容は
ともかく(^^;)。出来にはばらつきがあったのものの、それぞれに違った
味わいがあって楽しめました。好きな作家さんばかりですしね。新作が読めた
だけでも読んで良かったと思えるアンソロジーでした。
では、各作品の感想を。
乾くるみ『夫の余命』
乾さんらしい仕掛けの作品。少しづつ場面が過去に遡って行く形なのだけど、
そうした構成にしたことで、少しづつ主人公と夫の置かれた状況が明らかになって
行く。途中かなり混乱しました。最後まで読んで、ああ、こういうことか、と
だいたいは理解しましたが。でも、なんとなく腑に落ちない部分も残ったまま。
後味は最悪でしたね。どどーんと落とされた感じ。まぁ、本人がそれでいいと
思っているならいいのかな・・・うーん。
ラストまで読むと、タイトルの意味にとんでもない皮肉が隠されていることが
わかりました。
米澤穂信『崖の下』
群馬県の鏃岳スキー場の進入禁止区域で、バックカントリースキーに興じていた
四人組のグループが遭難した。捜索隊により、崖の下で二人が先に発見されたが、
一人は意識不明の重体、もう一人は他殺死体となっていた。その後、行方不明者の
うち、女性一人が生きて発見された。警察が先に見つかった二人の状況を伝えると、
気になる言葉を口走り、事情を知っていそうな素振りを見せるのだが――。
凶器は想像していたものとは全然違っていました。米澤さんらしいトンデモ凶器と
いう感じ。いやいや、無理だろー、とツッコミたくなりましたけど^^;あと、
発見されていない四人目が、特に誰からも容疑者扱いされないのがちょっと不思議
でした。まぁ、状況から犯人がわかりきっているからっていうのもあったとは
思いますけど、最後あっさり当日の行動が触れられて拍子抜けだった。
芦沢央『投了図』
ついこの間読んだ将棋ミステリの新作。コロナ禍の中で行われる話題沸騰の将棋の
師弟戦。決戦の前、何者かが会場の温泉旅館に嫌がらせの張り紙を貼り付けた。
夫と古書店を営む美代子は、張り紙は夫の仕業なのではないかと危惧するが――。
古書店にやってきた少年と夫の触れ合いは感動的ではあったけど、自粛警察の
心理ってこういうものなのかな、と冷めた目で思ってしまった。夫のしたことは
許されることではないですけど、こんな世の中を生きていると、やっぱり心が
荒んできてしまうものなのかもしれない。やりきれないけど、少年が夫の気持ちを
継いで立派な棋士になってくれれば、少し報われるのかもしれない。
大山誠一郎『孤独な容疑者』
<赤い博物館>シリーズ。このシリーズの新作が読めるとは思ってなかったので
嬉しかったです。冴子さんの推理は相変わらず名前の通り、冴え渡ってますね。
倒叙ミステリになってますが、一捻りしてあって、最後にある仕掛けが明らかに
なります。なるほど~!って思いました。それにしても、冴子さんの未解決事件
に対する嗅覚はすごいものがありますね。なんであれだけ時間が経っている過去の
捜査資料だけで犯人がわかってしまうのか。脱帽です。
学生アリスシリーズです。わぁい、江神さんだーーー!と叫びたくなりました(笑)。
しかし、内容的には、どうにもこうにも。英都大学の推理研とパズル研による
推理合戦がテーマなんですが・・・。青い目と緑の目の村人たちのパズルに関しては、
江神さんの解説聞いても何が何やらって感じで。問題自体も面白いものとは思え
なかったし。その後の、この村自体の謎解きも、感心するってレベルにはなかった
なぁ。もうちょっと他の問題なかったのかな。万人が納得出来そうなやつ。ミステリ
ファンでも、これは退屈な作品かもしれない・・・。でもいいんだ、江神さんに
会えただけでこのアンソロジー読んだ価値があったもん(どんだけ盲目ファンw)。
辻村深月『2020年のロマンス詐欺』
主人公が友人に唆されて詐欺グループの手下として詐欺の手伝いをして行く過程は、
読んでいてハラハラしました。普段は良識のある普通の学生が、こうやって悪事に
手を染めて行くんだろうな・・・。命令する側は安全な場所にいて、美味い汁だけ
すすって、末端の人間たちがリスクを負わされる。汚い言葉で主人公に命令する
男には、腹が立って仕方がなかったです。
真面目な主人公は、詐欺メールをやり取りする相手の主婦が夫からのDVに悩むことを
知ると、親身になって相手をするようになっていく。そして、ついに相手の家に
乗り込むことに。皮肉な結末でしたが、後日談で少し救われました。しかし、こういう
相手と付き合いたいと思うものかね(お互いに)。後々上手く行かくなる気がする
けどなぁ。