新宿駅に出来た新しいバスターミナル、『バスクル新宿』を舞台に繰り広げ
られる人間模様を描いた連作短編集。それぞれにいろんな事情を抱えて『バスクル
新宿』を訪れる人々の悲喜こもごもを鮮やかに描いていて、面白かったです。
モデルとなった『バスタ新宿』のことは、テレビ等で取り上げられていて出来たのは
知っていたけれど、私自身は一度も利用したことがありません。長距離バス自体は、
以前に何度か乗ったことがあるのですけれどね。夜行バスで行けば、時間はかかる
けど、かなり安価でいけますからねぇ。ただまぁ、長時間同じ体勢で座ってなきゃ
いけない環境は、かなり過酷ではありますけど。それは海外旅行での飛行機もです
けどね。
一話目で、同じバス乗り場に居合わせた人々で不可思議な出来事を推理し合う
出来事を経験した彼らが、『袖すり合うも他生の縁』と自分たちの状況を評した
ところが、この作品全体を象徴している場面だと思いました。その後のお話でも、
だいたい同じような状況で、その場に居合わせた人々が謎な出来事を話し合うという
展開になるので。たった一時同じバス内やバスターミナルに居合わせただけの関係
であっても、その後につながる縁が出来て行くところが良かったです。途中度々
謎な存在として不思議な印象を残す少年が、最後の一作に効いて来る辺りもお見事。
それまでの作品に出て来たキャラたちが、ここで一つにつながるところも良かった。
人生の岐路に立たされた時に出会った少年を、心から心配するそれぞれの登場人物
たちも、それぞれに好感が持てました。
新宿という大都会を起点にして、本当にいろんな地方まで行くことが出来るんですね。
バス旅行なんて長らくしていないけど、たまには夜行バスに乗ってのんびり遠くに
行くのも良さそうだなぁと思いましたね。今はコロナでなかなか多くの人々と
乗り合わせるバスを利用するのは躊躇しちゃうところではありますけれど。
ちょいちょい書店や出版社ネタが盛り込まれているところも大崎さんらしかったな
(出て来るキャラの仕事が書店員だったり編集者だったりするくらいですが)。
ミステリ的には日常の謎系なのであまり派手さはありませんでしたが、人と人との
繋がりを描いた爽やかな一冊でした。