ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

鈴木るりか「落花流水」(小学館)

f:id:belarbre820:20220407191245j:plain

鈴木るりかさん最新作。年に1冊ペース、ちゃんと守っていてすごいです。

るりかさんも今年の春から大学生になられたそうで。この作品は高校生最後に

なるんですね。っていうか、受験勉強しながらこれ書いていたのか・・・

すごい人だな。相変わらず、高校生とは思えない言葉選びのセンスが素晴らしい。

文章はシンプルで読みやすいけれど、これを高校生が書いたとしたら、やっぱり

その知識やセンスに脱帽せずにはいられない。

落花流水なんて言葉、初めて聞きましたよ・・・って、あれ、常識ですか?私が

無知なだけ?まぁ、主人公も小さい頃に年上(とはいえ小学生)のお兄ちゃんに

教えてもらった言葉な訳ですけど・・・習字やってると、四文字熟語とかに強く

なるものなんでしょうか(やってれば良かった!?)。

 

感想、ネタバレ気味です。未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

今回は、田中さん親子の物語ではなく、ノンシリーズ。しかも、テーマは恋愛・・・

??まぁ、主人公水咲ちゃんの恋愛は、かなり苦いものになってしまいましたが。

何せ、冒頭から、子供の頃からずっと仄かな恋心を持ち続けて来た大好きな

「お兄ちゃん」が、あろうことか、下着ドロボーで逮捕されてしまうのですから

・・・。しかも、盗るも盗ったり、その数八百枚超え。うぉい!お兄ちゃん、一体

何があった・・・!と、水咲ちゃんじゃないけど、叫びたくなりましたよ。

ストレスがたまっていたとしたって、この数は異常だ。はっきりいって、変○

だとしか思えない。こんな性癖があると知ったら、普通は百年の恋も覚めると

思うのですが・・・水咲ちゃんは、これは何かの間違いだ、お兄ちゃんはそんな

人じゃない!!と思うタイプで、なかなかに変わった子です。まぁ、小さい頃

から育んで来たお兄ちゃんへの恋がそんなあっさり覚める訳もなく。なんせ、

大好きなお兄ちゃんが高校教師になると知り、自分もお兄ちゃんのいる高校を

目指そうと猛勉強し、受かってしまうくらいなんですから。猪突猛進とはこういう

タイプのことを言うのだろうなぁ・・・。ほんとに、人生のすべてをお兄ちゃんに

捧げて来たような子で、純粋そのものというか、この子大丈夫かな?とこちらが

心配になってしまった。そして、案の定、そのお兄ちゃんへの純愛と純粋な性格が

災いして、事件に巻き込まれる羽目に・・・。お兄ちゃんが捕まってしまい、

お兄ちゃんの両親も自宅にいられなくなり、無人の家に残された池の鯉たちを

心配した水咲ちゃんは、彼らが不在の間、鯉の餌やり係を買って出ることに。

ある日、いつものように餌やりに来た水咲ちゃんは、無人の筈のお兄ちゃんの

部屋に人影があることに気づく。母親からお兄ちゃんの親戚の人が家人から

頼まれたものを取りに出入りしていることを聞いていた彼女は、その人物が

お兄ちゃんの従兄弟だと確信し、話しかけるが・・・どう考えても、怪しい

言動してるのがわかるのに、すんなり騙されちゃう水咲ちゃん・・・しゃべれば

しゃべるほど怪しさが増しているのに、なぜ!?とずっとツッコミながら読んで

ました^^;人が良すぎるんですよね。その後、警察沙汰になった時の反応も

素直すぎるし真面目過ぎて、感動を覚えるレベルでした。

水咲ちゃんと彼女を心配する友達たちとのやり取りも良かったですね。友達の

キャラも良かった。

ただ、残念だったのは、肝心のお兄ちゃんに関して。なぜ彼が下着ドロボーを

するに至ったのかとか、水咲ちゃんのことをどう思っていたのかとか、その辺り

の描写が一切出て来ない。多分かわいい妹分くらいの存在だったのではとは

思うけれど(そうじゃなければあんな犯罪に走る訳がない)。子供の頃の二人の

やり取りが微笑ましかっただけに、大人になってからの二人の関係も、もう少し

踏み込んで書いてほしかったです。犯罪に走った理由とか、捕まった時や拘置所

に入れられた後の心理とか。一番書いて欲しい部分が曖昧なまま終わってしまった

のが残念でした。

水咲ちゃんにあれだけ想われていると知った時、どう思うのかとかも読んで

みたかったなぁ。こういう子が近くで見てくれていると知っていたら、もしかしたら

犯罪者になることもなかったかもしれないし。まぁ、性癖は変えられないかも

しれませんが・・・。

いつもの鈴木ワールドで楽しめたのですが、ちょっと食い足りなさはあったかな。