ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

池井戸潤「民王 シベリアの陰謀」(角川書店)

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ドラマ化もされた『民王』の続編。一作目読んだのがかなり前で、ドラマも

ほとんど観てなかったから、内容すっかり忘れちゃってました。確か、首相と

息子の中身が入れ替わったんだったよな~ってくらいしか覚えてなかった^^;

まぁ、それでも特に問題はなかったのですけれど。

新たな謎のウイルス(コロナではない)が国内に入って来て、日本中をパニックに

陥れるという話。当然ながら、今現在のコロナ禍の日本をモデルにしているのが

わかります。ただ、当のウイルスは今流行っているコロナウイルスとは似ても

似つかない性質のものになってますが。発生源も、さすがに中○にする訳にいかずに、

シベリアということにしたのでしょう。おそらく、今現在のウクライナとロシアが

こんなことになるとはつゆとも思われなかったに違いない。不運というしかない

ような。

しかし、発生源がマンモスの肉とはね。リアリティはないけど、ギャグみたいな

作品だからこれはこれでアリなのかも。

発症した後の症状がなかなかすごい。凶暴化して、錯乱状態になり、暴れ回るとか、

こんなウイルスがコロナみたいに蔓延したら恐ろしいことになりますよ^^;

マダムウイルスってネーミングセンスもどうかと思いましたし(苦笑)。

感染者がどんどん増え続けて行く設定の割に、巷ではそこまでパニックになってる

感じがなかったのが不思議でした。もっとあちこちで暴力沙汰が頻発してないと

おかしいのでは?あと、若者は軽症で済むって設定もコロナと一緒だけど、

軽症だとどのくらいの症状なのかとか、あんまりよくわからなかったな(翔のように

自覚症状がないまま終わってしまうとかならわかるのですが)。ウイルスの設定

がちょっと甘いような印象を受けましたね。

今回は入れ替わりとかのファンタジックな設定は出て来なかったです。泰山の活躍

は全体的に控えめだったように思います。ただ、ラストの演説のシーンにはぐっと

来ましたけどね。コロナ禍になってから、日本の総理の言動にはガッカリさせられる

ことが多かったので(AさんSさんKさん、それぞれに・・・)、泰山のように、

どんな時も国民のことを考えて動いてくれる総理だったら、国民の不安も少しは

払拭されるのになぁ・・・と思わされましたね。理想論でしかないこともわかって

いるのですけれどね。総理のような立場になったら、いろんな利権も絡んで来る

だろうしね。

翔は、前作よりは少ししっかりして来たように思いましたね。シベリアまで行かされた

せいかな。冒頭では相変わらずのアホっぷりを披露していましたけどね(苦笑)。

翔の会社がマンモスの人工肉を作っているという設定は、きっと後で効いて来るん

だろうな、と想像してたのですが、その通りでしたね。そんなバカな、と思わない

こともないですが、エンタメ小説ですからね。

ただ、こんな風に政府に対する陰謀で、国民を巻き込むウイルスをばら撒かれたり

したらと思うと、本当に恐ろしい。コロナウイルスも、似たような陰謀論がまこと

しやかにネットを騒がせていたましたが。流行が世界規模に広がって、情報が錯綜

しすぎて、一体何が嘘で真実か、さっぱりわかなくなってしまった。結局、コロナの

発生源がどこなのかという論議も有耶無耶になってしまいましたしね。

話を広げ過ぎて、どう収集つけるのか不安だったのですが、まぁまぁの力技で大団円

に持ち込んだ感じでしたね(苦笑)。

エピローグで、紗英が、ウイルスが人間に英知を与えた可能性もある、と言及して

いて、はっとさせられました。こういう考え方も出来るんですね。ウイルスすべてが

悪という訳ではない。確かに、コロナが流行って、世間の人はいかに健康が大事か、

予防するには何が必要か、いろいろと今までの行動を顧みるきっかけになったと

思う。働き方も変わったし。リモートで出来ることも大幅に増えた。もちろん、

不自由な思いの方がはるかに多いけど、考え方次第で、悪いことばかりでは

ないのかもしれないな、と改めて思わされました。

政治を題材にしている割に、ギャグ多めで軽く読める分、いつもの池井戸作品よりも

食い足りなさを感じてしまうのは否めないかも。でも、これでそのままコロナが

題材だったら、とてもじゃないけどこんな風にコミカルには描けないと思うので、

エンタメ小説にはこれくらいのライトさがちょうどいいのかな、と思いました。

もし、次があるとしたら、今度は翔が選挙に立候補、とかの話になりそう。街頭

演説でめっちゃアホなこと言いそう(笑)。マニフェストが誤字脱字だらけとか。

それはそれで読んでみたいかも(笑)。