ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

青柳碧人「ナゾトキ・ジパング」(小学館)

青柳さん最新刊。素行も悪く成績は振るわないが学生からの人望が厚い秀次は、

春から精南大学男子寮の寮長となった。そんな秀次は、所属するゼミの雄島教授

の陰謀で、この春からアメリカからの留学生、ケビン・マクリーガルと同室になり、

世話を任された。ケビンは日本文化に造形が深く、日本愛に溢れた青年だった。

そんなケビンと行動を共にしていると、度々不可解な事件に遭遇するように。

始まりは、桜満開の三月の終わり、旧学生会館で文芸サークルのOBの死体が発見

されたことからだった。第一発見者は秀次の後輩の六車で、警察から犯人に疑われ

ているらしい。後輩の危機を救う為、秀次はケビンと共に事件を調べ始めるのだが

――。

日本文化にやたらに詳しく、日本愛に溢れたケビンのキャラクターが良いですね。

日本人でも忘れている日本の良さを改めて気づかせてくれる感じがして、好感が

持てました。素直で優しい性格も良いですし。そのケビンと行動を共にし、世話を

してあげる秀次は、始めはだらしなくていい加減な性格なのかと思いましたが、

意外と情に厚く、お人好しな面が見えて来て、ケビンとは良いコンビだなぁという

印象に変わって行きました。ケビンの影響で、日本文化の良さに気づいて、それを

素直に受け入れるところも好印象でしたし。なんだかんだで、仲間のピンチに

駆けつけて、救ってあげようと行動するところにも感心しましたしね。

ミステリとしても、面白かったです。一話目の『SAKURA』は、被害者が残した

最後の言葉の意味がわかった時、「そういうことか!」と思いましたし、ラストの

散る桜の美しさに関する秀次の考察にも胸がすくような気持ちになりました。

二話目のFUJISANは、ちょっとツッコミ所が多かった気はします。あれだけ

あからさまなアリバイ工作をあれだけの人数がするっていうのはどうもね・・・

誰が見ても、工作の臭いがするんじゃないでしょうか・・・。

三話目の『CHA』は、トリックとしては一番面白かった。ありえんだろう、と

思わなくもないけど・・・偽茶室を設置した場所には目が点になりましたよ(苦笑)。

被害者の愛人を被害者としておびき出した方法がいまいち腑に落ちなかったん

だけど・・・私の読み取り不足かなぁ。

四話目のSUKIYAKIは、唯一殺人事件が出て来ないお話。大学生の事件としては

一番リアルで学生らしい作品だったんじゃないかな。寮のみんなが一人の寮生の

為に行動するところが青春していて良かったです。失恋のほろ苦さもありましたしね。

五話目の『KYOTO』は、秀次の元ルームメイトの優作が殺人事件の容疑者にされて

しまうという作品。この作品でも、仲間のピンチを救う為に秀次やケビンを始め

とする寮生たちが大活躍します。凶器が包丁からナイフに変わっていたトリック

の真相には驚かされました。そんなに自然に細工出来るものなのか?という疑問

を覚えなくもなかったけど、斬新なトリックだなーと思いました。現場でお香が

炊かれていた理由もなるほど、と思えましたしね。

エピローグでは、ケビンのおせっかいが秀次の仄かな恋心に火をつけたみたいで、

これからの二人の関係の変化が楽しみになりました。

ケビンと秀次のちょっと噛み合わない掛け合いも楽しかったし、日本ならではの

文化を改めて学ばせてもらえる意味でも勉強になったし、とても面白かったです。

男子学生寮の男くさい、わちゃわちゃした青春感も良かったですしね。紅一点の

理沙ちゃんの存在も効いてました。続編あったらいいな。