ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

似鳥鶏「夏休みの空欄探し」(ポプラ社)

似鳥さんの最新作。高校二年の成田頼伸は、謎解きやクイズが大好きで、部員二名

のクイズ研究会に所属している。同じクラスに、明るくスポーツも万能で、ダンス

同好会で活躍する陽キャな成田清春がいるせいで、クラスではいつも「じゃない方」と

呼ばれている。夏休みのある日、ファーストフードで本を読みながら時間を潰して

いた頼伸は、すぐ隣のテーブルで二人組の女性客の会話が耳に入って来た。二人は、

謎解きクイズに挑戦しているらしい。クイズ大好きな頼伸がそちらに目を向けると、

紙に書かれた謎解きクイズの問題が目に入った。女性二人が解けずに悩んでいる

その問題の答えが、頼伸にはすぐに解かってしまった。陰キャな頼伸は話しかける

ことが出来ないが、女性二人は解けずに困っている様子。すると、シェイクを取りに

二人が一旦席を外した。チャンスと思った頼伸は、その空きに、自分のレシートに

書かれた答えの数字の部分に丸をつけて、二人のテーブルに置いて席を立った。

外に出てすぐに、頼伸のメッセージに気づいた女性たちが追いかけて来た。二人は

姉妹で、暗号はもうひとつあり、それを解くのを助けてほしいと言う。承諾した

頼伸は姉妹と共にもうひとつの暗号の答えを考え始めたが、そんな時、偶然陽キャ

成田清春と遭遇し、姉妹の姉に一目惚れした彼も加わり、なし崩し的に四人で謎解き

することに――。

ザ・青春ミステリー!って感じでした。夏休みだけの特別な謎解き体験。若い男女

四人で、次々立ちはだかる謎を協力して解いて行く過程にはワクワクしました。

ひとつ謎を解くと、その回答が次に行くべき場所になっていて、四人の行動範囲は

どんどん広がって行きます。正直、新幹線まで使って移動しなきゃいけなくなった

時は、こんな広範囲に亘る謎解きゲーム、実際実行する人なんかいないだろう、と

不審に思ったりもしました。まぁ、姉妹二人に何らかの事情がありそうだったので、

何かからくりがあるんだろうとは思ってましたが・・・。

ラストで明かされるある事実を知って、そういうことだったのか、とすべてが腑に

落ちる気持ちになりました。妹の七輝が、いやに頼伸に対して積極的だったのも、

ちょっと不自然に感じてたんですよね。そういう性格に見えなかったので・・・

頼伸の方も陰キャな割に、七輝に対してはぐいぐい行ってたのも若干引っかかった

んですけどね(そっちは、別に裏があった訳じゃなかったけど^^;)。

正反対の頼伸と清春が、ひと夏の謎解きゲームを通して少しづつ打ち解けて行く

ところも良かったですね。最初の、清春の頼伸に対する暴言にはムカつきました

けども。それも、自分に対するコンプレックスから出た発言だったことがわかって、

納得出来ました。

ひとつひとつの暗号については、正直、アホな私には解説されてもピンと来ない

ものが多かったです。こんなの、高校生が良く解けるよなぁと感心しちゃいました。

途中に出て来る地図で解がわかる暗号は、さながら高田崇史さんのQEDシリーズを

読んでいるかのようでした。タタルさんなら普通に解けそうな気もするな(笑)。

解ける方もすごいけど、出題する方もすごいと思いました。

いろいろと腑に落ちないものを抱えながら読んでいたので、終盤すべてがわかって

すっきりはしました。ただ、真相はとても切なく、やりきれないものでした。

出題者の、最後のメッセージに気づいた頼伸はとても偉かったと思うけど、その後

はどうなってしまうのだろう。最悪の場面までは描かれずに終わったので、そこは

察して下さいって感じなのかな。この作品内では、あくまでも爽やかな青春ミステリ

っていう印象を残して終わりたかったのかも。でも、よっぽどの奇跡が起きない

限り、近い将来悲しい結末になってしまう訳で。そのことを考えると、爽やかと

ばかりも云えない作品なのかな、と思いました。

まぁ、クラスのヒエラルキーの最底辺にいるような頼伸にとって、この夏の経験は

間違いなく、一生忘れることのない思い出となったことでしょう。これをきっかけに、

彼自身も大分成長出来たのかな、と思いました。

切なくもほろ苦い、直球の青春ミステリーでした。夏に読むにはぴったりの

一冊かもしれませんね。