ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

今野敏「任侠楽団」(中央公論新社)

任侠シリーズ最新作。今回のテーマはオーケストラ楽団。ただ、今回阿岐本組が

任されたのは、楽団の立て直しではなく、楽団員同士の内紛の仲裁。音楽に

造形が深い訳でもない代貸の日村は、不安で仕方がない。しかし、オヤジの言う

ことには従わなければならない。相変わらず、心配性の日村さんが阿岐本組長に

振り回されるところが気の毒になりつつ、可笑しかったです。なんだかんだ、

音楽の素晴らしさには素直に感動しちゃえる人だし。毎回、不器用な性格で

心配性な割に、意外と順能力もあるところが日村さんのすごいところだと思うな。

ただ、内紛を鎮めることが主目的なだけに、ちょっといつもより痛快感は控えめ

だったかな。一応、マエストロが襲撃されるという事件も起きるけれど、大した

怪我でもなかったし、そちらの解決も引っ張った割には、あっけなかったしね。

今回、阿岐本組長とタッグを組んでマエストロ襲撃事件を捜査する碓氷刑事ですが、

なかなか面白いキャラだなぁと思っていたら、どうやら他のシリーズに登場する

キャラクターのようですね。今野さんの作品は、ほとんど任侠シリーズと隠蔽

捜査シリーズしか読んでないから、全然気づかなかった^^;きっとファンなら

嬉しいリンクなんでしょうね。

途中、オーケストラを率いるマエストロと、ジャズのビッグバンドを率いるバンド

マンが相互に尊敬し合うシーンは胸アツでした。それぞれの音楽性を受け入れる

ことで、自らの音楽も広がって行くものなんでしょうね。才能ある人は、同じように

才能ある人間のことを認める心の広さがあるのでしょうね。そこで反発するような

人間には、いい音楽なんか作れないのかも。まぁ、大して音楽の知識のない私が

言っても、何の説得力もないですけどね・・・^^;

内紛の方も襲撃事件の方も、一気に解決しちゃえる阿岐本組長はやっぱりすごい人

ですね。ヤクザの親玉だけあって、いろんなことが見えているのでしょうか・・・。

振り回される日村さんは可哀想だけど、なんだかんだで組員たちのことも

きちんと見てくれてるし、いい親分だな、と思います。日村さんも、今回の

依頼になかなか絡ませてもらえない弟分たちに配慮して、現場に連れて行ったり、

調べ物を頼んだりと、彼らが少しでも活躍出来るように気を使ってあげられる

ところがいいアニキだな、と思わされました。

ちょっといつもより痛快度は低めだけど、今回も楽しく読める一作でした。次は

どんな依頼を遂行するのやら。阿岐本組長の気まぐれがいつ発動するのか、

楽しみに待っていたいと思います。