ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

池井戸潤「ハヤブサ消防団」(集英社)

池井戸さんの最新刊。470ページ超えのなかなかの長編。まぁ、今読んでる作品

は600ページ超えなので、更に分厚いのですが^^;いつもの池井戸作品に比べる

と、情景描写とか状況説明が多いせいか、ちょっと読むのに時間がかかってしまい

ました。のどかな田舎町で起きる、不穏な連続放火事件を描いたサスペンス・

ミステリーって感じでしょうか。

主人公は本格ミステリ作家の三馬太郎。離婚した父親が亡くなった際、父親の故郷の

自宅を相続した太郎は、ふとしたきっかけで父親の故郷であるU県S郡の、八百万町

ハヤブサ地区を訪れる。風通しの為に父の自宅を訪れてみると、自宅から見る

八百万の町並みや周囲の自然の美しさに感動し、東京の自宅を引き払って、

こちらに移住する決意をする。近所の人たちは、太郎が父親の息子だと知ると、

太郎の移住を歓迎してくれた。地元の居酒屋で歓迎会を開いてくれると言うので

参加すると、そこで太郎は地元の消防団に入団することを勧められる。初めは

戸惑ったものの、地元の若い衆はみな入っていると言われて入団することに。

すると、のどかな集落だと思っていたハヤブサ地区で、最近放火事件が相次いで

いることを知る。太郎は次第に、この連続放火事件の裏に潜む不穏な存在に

気づき始めるが――。

タイトルから、太郎が入団したハヤブサ消防団の活動をメインに描いたもう少し

軽妙な雰囲気の作品を想像していたのですが、不穏な連続放火事件をテーマに

した、予想外にシリアスなサスペンス作品でした。連続放火の裏には、得体の

しれない新興宗教団体が関わっているし。どうしたって、あの首相の暗殺事件を

思い出してしまいがちですが、本書が連載されていたのは当然ながら事件よりも

ずっと前のことであり。新興宗教をテーマにしたものを読むのは、いつも少し

気が滅入ってしまいます。狂信的な信者の言動は、到底理解しがたい心理が

働いていて、悍ましいとしか感じられないからです。今回も、事件の背後には、

そうした理解しがたい宗教の闇が垣間見られました。

連続放火事件の犯人に関しては、最後の最後まで二転三転する展開で、誰が

関わっているのか翻弄されました。太郎の身近の人物の関与がところどころで

仄めかされていたので、それが一体誰なのか、怪しい人だらけで、最後

まで読めなかったです^^;

地域の消防団の活動に関しては、いろいろと興味深いことが多かったです。

素人があんな風に普通に消火活動することも出来るんだなーとか。太郎が入団

したハヤブサ消防団の仲間たちはみんな基本的にはいい人ばかりで良かったです

けど、結構問題があるところも多いって聞きますよね。消防団に入らないと

ハブられるとか、入団したら飲み会が多くて断れないだとか。この作品読む

少し前に、ちょうど地方の消防団の団員たちが一斉に退団したニュースを聞いた

ばかりでしたしね(理由が何だったのかは忘れちゃったけど)。でも、田舎の

町だと、こういう町の消防団がメインで消防活動をしているところも多いそうで。

こうした人々の協力があって、地域の安全が守られているのでしょうね。

不穏な事件がメインではありますが、ところどころに挟まれるハヤブサ地区の

自然豊かな情景描写には癒やされました。ホタルの群生が観れたりだとか。

川で釣りができたり、お祭りもありましたね。地方ならではののどかな空気感が

良かったです。それだけに、その自然をぶち壊そうとする太陽光パネルの業者には

腹が立ちましたけどね。

最後はちょっと駆け足で真相がわかる感じだったので、そこまでが長かっただけに、

もう少し盛り上がりが欲しかったような感じもしました。

太郎の、企画倒れになったハヤブサ地区を舞台にした町おこしの為のミステリー

ドラマ、観てみたかったです。面白そうだったので、実現させて欲しかったなぁ。

せっかく原作を書きおろしたのにね。

いつもの池井戸作品のようにスカッと終わるような作品ではなかったですが、

地方の町ならではの読みどころも多く、読み応えのある一作でした。