ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

櫻田智也「サーチライトと誘蛾灯」(東京創元社)

久しぶりのミステリ・フロンティア作品。梓崎優さんの新作が出るって予定は

どうなったんだろ?心待ちにしているのになぁ。このレーベルの作品は良作が

多いので、かつては出る度に手にとっていた時期もあったのですが、最近では

全然追いつけなくなってしまいました^^;本書は、二作目の記事をゆきあや

さんのところで見かけて面白そうだったので、一作目から借りてみました。

昆虫大好きな変人・魞沢(えりさわ)が探偵役の連作ミステリー。飄々とした

魞沢のキャラクターがなかなか面白くて良かったです。昆虫好きってことで、

毎回何らかの虫がテーマになったりしますが、そこまでがっつりミステリに

関わっている訳でもないので、虫嫌いの私でもあまり嫌悪感なく読めました。

それに、最近は薔薇につく虫を退治する機会が多いので、以前よりは虫に免疫が

出来ているような気も・・・(相変わらずGはダメですけど^^;)。

魞沢がとぼけたキャラなので、物語全体にもちょっとゆるいというかユーモアが

入っていて、軽く読めるところが良かったです。ミステリ的にも、なかなか読ませる

ものがありましたし。個人的に一番好きだったのは、4話目の『火事と標本』かな。

魞沢が、泊まった宿の主人の幼い頃の悲しい思い出の謎を解く話ですが、真相の

やり切れなさと切なさに胸が詰まりました。

表題作の1話目も良かったですね。公園で起きた殺人事件を、昆虫目当てに

その公園に来ていた魞沢が解くものですが、細かい伏線がしっかり謎解きに

効いていて、秀逸だと思いました。ヤカンとか似顔絵の使い方とかね。

3話目の『ナナフシの夜』も好み。バー<ナナフシ>に来ていた客が翌日

殺された。バーでその客と行き会った魞沢が、なぜその客は殺されたのかを

推理する、という話。虫のナナフシと、バー<ナナフシ>の対比がなかなか

ハマっていたと思います。バーで行き会っただけで、謎の真相を推理出来ちゃう

魞沢の慧眼には恐れ入りました。

でも、実は、一番心に残ったのは、あとがきの作者と泡坂妻夫さんの電車での邂逅に

まつわる文章だったかも。泡坂さんが好意で、サインしようかと水を向けてくれた

のに、紙もペンも持ってなかった櫻田さん。それを受けて恥ずかしそうにしている

泡坂さん。二人の様子を見て、隣の乗客の方が紙とペンを差し出してくれて、無事

サインをもらうことができたそう。羨ましいし、なんだかとっても素敵なエピソード

だな、と思いました。泡坂さんの優しさに触れたことで、より執筆に力を入れようと

思えたのではないかな。敬愛する泡坂さんのサインがもらえて、どれだけ嬉しかった

ことでしょうね。一生の宝になったのじゃないかな。

文章も読みやすいので、さくさく読めました。魞沢のキャラはなかなか気に入った

ので、評判の良い二作目も早めに読みたいです。