ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

近藤史恵「それでも旅に出るカフェ」(双葉社)

とっても自分好みで大好きだった『ときどき旅に出るカフェ』のカフェ・ルーズ

シリーズ(勝手に自分で命名)第二弾。旅行好きの店主・円が世界中を旅して

出会った料理やスイーツを研究し、再現してメニューとして出している『カフェ・

ルーズ』。このカフェのファンで常連の瑛子は、コロナで閉店したままのカフェ・

ルーズと店主の円のことを案じていた。円は今どうしているのか。不安な日々を

過ごす中、ある日瑛子は駅のホームでばったり、円のルームメイトで韓国人の

ヒョンジュと出会う。円の消息を聞くと、彼女はすでにヒョンジュとルームシェア

していた部屋を出て引っ越したという。ヒョンジュは円に連絡して、瑛子が心配

していたと伝えてくれると言ったが、その後意外な形で円の現在の様子を知ることに

なり――。

 

このシリーズの世界でも当然の如くにコロナが忍び寄り、飲食店であるカフェ・

ルーズと円も、大きな影響を受けることになります。最近、結構コロナ禍を舞台に

した作品を良く読んでるなぁ。もしかしたら、コロナ真っ只中に連載していた

作品が、ちょうど単行本にまとまる時期だからなのかも。コロナ禍の時の人々の

内面心理を読むのはやっぱりその時の自分を思い出して、胸が塞がれる気が

しちゃいますね。もちろん、円のように飲食業を営む人などは、私なんかとは

比べようもないくらい大変な思いをしたはずで。円はまだ、店舗が祖母から

受け継いだものだったから乗り切れたけれど、貸店舗でやっているような人は

更に大変だったでしょうね・・・。

大好きだったお店が閉店したままで、再開がいつなのか気に病む瑛子の気持ちも

痛いほど理解できました。でも、円は円で、この危機を乗り切るべく、いろいろと

画策していたとわかってほっとしました。円が、こうやって、来たるべく明るい

未来を信じて動ける人で良かった。きっと何度も心が折れかかったりもしたの

だろうけども。

再開したカフェ・ルーズで出されるお料理やスイーツはどれも知らないもの

ばかりで、世界の料理を食べるのが大好きな人間としては、どれも食べてみたく

なりました。円のすごいところは、自分で食べたことがなくても、作り方を

調べて、自分なりに研究して美味しく提供出来るところ。まぁ、今はインターネット

検索で料理名を検索すれば、大抵の料理の作り方は調べられちゃいますけど。

こうやって、その国に行かなくてもその国ならではの現地料理を食べるだけで、

世界を旅した気分になれる場所があるのって、すごくいいなぁと思いますね。

前作でも書いた気がするけど、こんなカフェが身近にあったら、絶対通いたい!!

ま、普段カフェとか全然行かない人間なんだけどさ(苦笑)。世界のいろんな

料理が知れるのって、すごくワクワクします。全く知らない国の、全く知らない

味に出会ってみたい!!

今回出て来たメニューも、名前すら知らないものばかりでした。リャ―ジェンカ

(ロシア風チーズケーキ)、ブレッドクリームケーキ(スロベニアのケーキ)、

フランセジーニャ(ポルト風サンドイッチ)、鳥のミルク(ロシアのケーキ)、

ファラフェルサンド(イスラエル発のひよこ豆のコロッケを使ったサンドイッチ)、

クレイナ(アイスランドのドーナツ)、クルフィ(インドのアイスクリーム)、

酸梅湯(中国の夏バテ対策用ドリンク)・・・こうやって作品読み返して、出て

来た料理羅列してみても、ひとつも名前知らなかった。どれも美味しそうだったなー。

作品世界では、コロナが少しづつ落ち着いて、再開したカフェ・ルーズも少し

づつ日常を取り戻して行く様子が描かれています。けれども、終盤では、せっかく

軌道に乗りかけたカフェ・ルーズの平穏を揺るがす出来事が。こんな、個人で

細々とやっているお店を標的にして、なんでこういう悪意を抱くのか、理解に

苦しみます。円が自分の思い通りにならなかったからって。ただ自分のプライド

を傷つけられた腹いせにこんなことをするなんて(怒)。こんなヤツがやってる

お店の料理なんか、絶対食べたくない。その妻の言動もひどすぎた。まぁ、

お似合いの夫婦だと思いましたけどね(呆)。

円はどんな時でも一本筋が通っていて、凛としていてかっこいい人だなぁと

改めて好ましく思いました。まだまだ、円にはいろんな国の料理を教えてもらい

たいです。円がまた、いろんな国を旅して新しいメニューのヒントをもらって

帰って来る姿が見たいです。多分、作品の中でも、もうすぐその日が訪れるはず。

それを願って、次の巻を待ちたいと思います。