ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

柚木麻子「オール・ノット」(講談社)

柚木さん最新刊。貧困学生の真央は、アルバイト先のスーパーで、試食販売員の

山戸四葉から温かいお茶をもらって以来、彼女のことが気にかかるようになった。

他の従業員に聞くと、彼女が試食販売に立つと商品が良く売れるらしい。真央が、

勇気を出して彼女に話しかけてみると、四葉苦学生の真央のことを何かと気に

かけてくれるようになり、次第に親しく話す仲になっていった。四葉の身の上は

真央を驚かせるものだった。彼女は、かつて栄華を誇った横浜で有名な山戸家の

一人娘だった。しかし今では没落し、財産はほとんど残っていないという。そんな

四葉から、真央は宝石の入った宝箱を託される。苦学生の真央を救いたいという

四葉の申し出に戸惑いながらも、ありがたくそれを受け入れた真央だったが――。

うーーーむ。感想がとても書きづらい。なぜなら、私にとっては、この作品、

面白いと思える要素がほとんどなかったからです。まだ、一章の真央と四葉

出会いの部分では面白いと思える部分もあったのだけど・・・その後の章は、

読めば読むほど、不快な気持ちにしかならなかった。とにかく、好感持てる

人物がほとんど出て来ない。ゆえに、共感出来るところもひとつもない。苦学生

真央が、四葉さんからもらった宝箱をきっかけに、人生を好転させていくという

ストーリー展開がメインだったら、もう少しスカッとしたかもしれないけれど・・・。

第二章以降主要登場人物がころころと入れ替わって、四葉さんの過去や、山戸家の

いろんな騒動や、四葉さんの親友(だった)ミャーコの話が出て来たりして、

どんどん物語がとっちらかっていってしまった感じがしました。特に実亜子

(ミャーコ)のキャラ造形は酷かったな。こんな奴を『親友』と言って褒めそや

していた四葉さんの気がしれない。四葉さんを利用していい思いしていたのに、

あっさり連絡を経ってしまったり。自分の都合で連絡取ったり取れなくなったり、

身勝手過ぎてドン引きしました。主人公の真央も、四葉さんから宝箱に入った宝石を

もらって奨学金返済に充てたくせに、思ったほどの金額にならなかったとか言って

連絡経つとか、あり得ない行動で絶句しました。思ったほどの金額にならなかった

としたって、百万以上にはなってるんですよ?百万を超える援助をしてもらって

おいて、ああいう態度に出るなんて、私なら考えられないです。申請する筈だった

奨学金とほぼ同額だったからって、どうでも良くなったって。申請しなくても

援助してもらえたってことに感謝するべきなのに。もう、いろいろと人として

終わってる子だなと呆れました。

後半に出て来た、横浜銘菓『りぼんのぼうし』のパッケージのモデルになった

舞のことも好きになれなかった。彼女の幼少時のトラウマには同情するけど、

自分のことで裁判沙汰になったのに証言台にも立たないで、一体何がしたかった

のか。山戸家を憎んでいるって言いながら、山戸家に居座るし。ただ、山戸家の

疫病神になっただけっていう。山戸家の女性たちの同情に付け込む姿勢にイラッと

させられました。その山戸家の女性たちも好感持てるとは言い難かったですけどね。

四葉さんはいい人なんだろうけど、お嬢様育ちで世間知らずのせいか、他人の悪意

に鈍感過ぎて、それはそれでイライラさせられたしね。だからいろんな人から

利用されちゃって、挙げ句の果てには、好きな人からも騙されて。踏んだり蹴ったり

な人生過ぎて気の毒だった。でも、最後の最後、彼女の現在の姿が明らかに

なって、少しだけ溜飲が下がったところはありましたけどね。彼女の不幸すぎる

過去なんか描くよりも、真央と会わなくなった後から、そこに至るまでの今の

彼女を描いた方がずっと面白かっただろうし、痛快な気持ちで読み終えられたん

じゃないだろうか。

いろんな要素を詰め込み過ぎて、一体何を狙って書いているのか、全然わからない

話になっちゃった気がする。柚木さんらしい女性の書き方って感じはしたけど、

正直、こんな嫌な女ばっかり書かなくても、とは思いましたね。ミャーコなんか、

エキセントリック通り越して、わがままで身勝手な女にしか思えなかったもんな。

そういえば、去年出た『らんたん』も、登場人物の女性たちが全く好感持てなくて、

結構最初の方で挫折したんだった。最近の柚木作品とはちょっと、好みが合わなく

なって来ているのかもしれないなぁ。

世間の評価も割れてるみたいですね。面白いって人も多いみたいだけど。

個人的には、今年読んだ中でも1、2位を争うくらい、合わない作品だった。

一章読んで、次こそは面白くなるかもって次の章に向かうんだけど、結局最後

まで肌に合わなくて、そんなに長い作品じゃないのに、読んでも読んでもなかなか

終わらなくてイライラした。良く挫折しなかったなぁと思うくらい。最後はほぼ

意地だったような^^;まぁ、四葉さんのその後がわかったので、最後まで

読んで良かったとは思いましたけどね。