ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

近藤史恵「ホテル・カイザリン」(光文社)

近藤さん最新刊。いろんな媒体で発表された短編をまとめたもの。アミの会の

アンソロジーに収録された作品が多いので、蓋を開けてみたら、大部分が既読

だったという^^;内容あんまり覚えてないものも多かったから、普通に全部

読んじゃいましたけどね。多分、既読じゃなかったのは三作くらいじゃないかな。

外国を舞台にした作品は、やはり異国情緒溢れていて近藤さんらしさが出ていて

いいですね。特にパリを舞台にした作品は、私も行ったことがある場所がたくさん

出て来て、懐かしかったです。

では、各作品の感想を。

 

『降霊会』

幼馴染の砂美が、学園祭でペットの降霊会を催すという。こんな悪趣味な催しを、

なぜ砂美は突然企画したのだろう――胸騒ぎがしたぼくは、砂美の降霊会に参加

することに――。

砂美が降霊会を企画した理由には驚かされました。黒っ!って思いましたが、

ラストのオチで更に突き落とされる気持ちになりました。主人公のサイコパスっぷり

が怖かった・・・。

 

『金色の風』

バレエの道を諦めて、パリに逃げて来たわたし。パリの街にはなかなか慣れなかった

が、少しづつ外も出歩くようになった。そんな時、ゴールデンレトリバーと共に

走る女性を見かけて自分も走りたくなり、パリの街をジョギングすることに。すると、

その犬連れの女性とまた会い、仲良くなった。しかし、ある日彼女から悲しい知らせ

がもたらされて――。

楽しそうに走る犬のベガとアンナの姿が微笑ましかっただけに、アンナからもたら

された悲報にはショックを受けました。でも、主人公が二人(一人と一匹)との

出会いをきっかけに前を向いて行こうと思えたところは良かったと思う。パリの

街中の風景(ペール・ラシェーズの墓地やオペラ座やギャルリー・ラファイエット等)

を懐かしみながら読めて嬉しかった。

 

『迷宮の松露』

理由あってモロッコに一人でやってきたわたし。なぜか、モロッコに来たら、

亡くなった祖母の夢をよく見るようになった。祖母はいつでもきちんとして、

美しいひとだった――。

こういうお祖母さんがいたら、自分もきちんとしなきゃ、と思わずにはいられない

でしょうね。お祖母さんが生きていた頃の主人公との会話を聞いてみたかったな。

松露というお菓子は初めて知りました。キノコの名前だとは。モロッコの風景は

素敵だった。それだけに、先日の地震の被害が思い出されて、胸が痛みました。

 

甘い生活

わたしは、子供の頃から誰かのものが欲しくて仕方ない子だった。小学五年生の時、

沙苗がわたしの家に遊びに来た時、彼女が持って来たオレンジ色のボールペンが

欲しくてたまらなくなり、嘘をついて自分のものにした。それから九年後、その

ボールペンが高価なものだということがわかり――。

こういう子、いますよね。他人のものを何でも欲しがる子。主人公の卑しい内面

がこれでもか、と続くので、かなり辟易して読んでました。ラストまで全く救いが

ないけど、今までやってきたことのツケが回って来ただけで、自業自得だと思い

ましたね。自分の卑しい心が、沙苗ちゃんの運命を変えてしまったことを、もっと

深刻に受け止めるべきでした。

 

『未事故物件』

はじめての一人暮らしに心を踊らせる初美だったが、ある時を境に、上の階の

住民が、夜中の4時に洗濯機を回すようになり、眠れなくなった。管理会社に

言ったものの、上の階は空き室だと言われてしまい――。

これは、実際ありそうな犯罪ですねぇ。最初、心霊現象かと思いましたが・・・

怖すぎる。未然に防げて良かったです。

 

『ホテル・カイザリン』

わたしは、月一度、年上の夫が出張の時に、息抜きでホテル・カイザリンに泊まる。

山の中腹にあり、明治時代の洋館を改造したホテルで、各部屋にはシェイクスピア

戯曲の名前がついていて、とても内装が凝っているのだ。ある日、わたしは

ホテル・カイザリンで愁子と出会った。彼女とはとても気が合った。彼女と過ごす

ホテルでの一日が、私にとっての癒やしになった。しかし、ある日悲劇が訪れる――。

お世話になっていたホテルに対して、恩を仇で返す行動をした主人公には腹が立ち

ました。ただ、主人公をトロフィーワイフとしてしか見ていない夫にはもっと腹が

立ちましたが。お互いに罪を償ったら、また友人として会えるようになるのかも

しれない。

 

『孤独の谷』

大学で文化人類学の講師をしているわたしは、生徒の波良原美希から、彼女の

出身であるW県の纏谷村の奇妙な風習に関しての相談を受けた。彼女が言うには、

纏谷の住民は、誰かが謎の死を遂げると、みんな村から出て行くのだという。

その村には、どんな秘密があるのだろうか――。

こんな風習があったら嫌だなぁ。何でこの村の住民だけがこうなるのか、どういう

システムなのかさっぱりわからないけど。誰か死人が出たら、家族間でもアレが

出来なくなるなんて。なんだか腑に落ちないけど、不気味な話だった。

 

『老いた犬のように』

小説家のぼくは、妻の葵が出て行ってから侘しい一人暮らしだ。週に一度家事代行

サービスを頼んでいるから、家は比較的きれいなまま保たれているが。葵はぼくの

ミューズだったが、なぜ家を出てしまったのか。ある日、行きつけの喫茶店で、

あることがきっかけで、SNSでフォローしてくれている南風さんという女性と出会う。

そこから少しづつ親しく会話をするようになるのだが――。

こういう男は、本当に自分のことを客観的に見ることが出来ないんでしょうね。

自分が妻にどれだけ酷い態度を取って来たのか。南風さんは、妻が仕込んだ刺客

なのかと思いきや。彼女の言動もちょっと、私には理解不能だったな。哀れな人

にしか惹かれないって、それこそ哀れな人間にしか思えなかった。