ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

吉田修一「素晴らしき世界 ~もう一度旅へ」(集英社文庫)

ANAの機内誌(翼の王国)に掲載された、吉田さんのエッセイを集めた旅エッセイ集、

最終巻。連載が終わってしまったみたいなので、これで最後なんですね。多分

全部読んでる訳ではないけど、読めた作品はどれも楽しく読めたので、これで

最後なのはちょっと寂しい。今回は、コロナの真っ只中に掲載されたものが中心

なので、コロナ禍のこともちょいちょい書かれていました。コロナが始まってから、

遠出の旅行を全くしていないので、飛行機に乗ることもなくなっていました。

本書を読んで、ああ、飛行機に乗って、遠くに行きたいなぁ・・・と改めて

思いましたね。吉田さんが紹介する、様々な国内・海外の都市の様子や、食べ物

や風土、どれを取っても行ってみたくなるような描写ばかりで、いつか行けたら

いいなぁ、とその都度思えました。吉田さんといえば、もう大作家と言っても

おかしくない地位を確立されていると思いますが、どのエッセイでも、誰に

対しても温厚で謙虚なお人柄が表れていて、ほっこりさせられました。人生初の

トークショーでの様子も、緊張っぷりが伝わって来て、微笑ましかったな。

基本アナログ派で、人生初のリモート会議にドキドキする様子とかも、すごく

共感出来ました(そもそも、私はリモート会議ってやつをやったこと自体がない

ので(リモート飲みもしかり)、もし今後やるとしたら、多分同じような感じに

なると思われ・・・^^;)。

旅の失敗談も紹介されているのですが、印象的だったのは、そうした旅先での

失敗というのが、旅に出られる幸福の一部なのだ、という文章。本当に、コロナ禍

で遠くに行けなかった時期のことを思い出すと、その言葉通りだな、としみじみ

思い返されました。

あと記憶に残ったエッセイは、飼い猫の金ちゃん銀ちゃんについてのこと。とっても

かわいがっているのが伝わって来て、ほのぼの。基本的には病気もなく元気な猫

ちゃんずなのだけど、銀ちゃんが百合の花をなめて病院にかかったことがあるそう。

百合が猫にとって猛毒だとは知らなかったです。まぁ、人間にとっても毒だった

気がしなくもないので、推して知るべしって感じはしますが。人間にとって毒

じゃなくても、犬猫にとっては毒なものもたくさんあるし、ペットを飼うって

いうのは神経を使うものですよね。まぁ、その時は微量の花粉をなめたか吸い込んだ

かしただけなので、大事には至らなくてよかったですけどね。

柔らかい文章で綴られる吉田さんのエッセイは、どの回を読んでも温かい気持ちに

なれました。これで終わりはやっぱり寂しいなぁ。旅好きとしては、旅行に

まつわるエッセイを読むのは大好きなんですよね。まぁ、旅に出たくなって

うずうずしちゃうっていう弊害はありますけどね^^;またどこか違う媒体でも、

吉田さんには旅にまつわるエッセイを書いて頂きたいですね。