ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

貫井徳郎「龍の墓」(双葉社)

貫井さん最新ミステリー。VRゲームと現実の殺人事件がリンクする長編ミステリー。

発端は、東京の町田市で身元不明の焼死体が発見されたことから始まります。事件

を担当する所轄刑事の安田真萩は、警視庁からやって来た捜査一課の南条をコンビ

を組むことに。被害者のデンタルチャートから身元が判明したが、犯人の目星は

つかないままだった。そんな中、荒川区の東尾久で三十代女性の刺殺体が発見

された。その殺害方法から、ネット上では町田の事件と関連付けた、ある噂が飛び

交っていた。それは、人気のVRゲーム『ドラゴンズ・グレイブ』の中で起きる

連続殺人事件と類似しているというものだった。真萩は、この手のゲームに詳しそう

な、かつての同僚・瀧川に意見を聞くため連絡を試みるのだが――。

時代設定は、メガネ型のVRが発達し、誰もがスマホよりVRを持つ、今より少し先の

未来のようです。スマホ機能がメガネ型のVRにすべて入っているって感じで、

電話やネット通信など、すべてがVRで行えるっていう。ただし、ヒロインの真萩は、

アナログ人間なため、VRではなくスマホを使っています。いつの時代にも、進化に

乗り遅れたアナログ人間というのはいるものですね(私もそっちに近い^^;)。

このVRを使ったゲーム『ドラゴンズ・グレイブ』が巷では大流行していて、その

中で起きる連続殺人事件と、現実の事件がリンクしていく、というのがざっくり

したあらすじ。

帯に錚々たる作家さんたちがコメントを寄せていて、これは貫井さんの新境地に

なるのでは、と期待を込めて読み進めて行った訳なのですが・・・う、ううむ。

なんだろう、この中途半端感。確かに、今までの貫井さんの作風とは大きく

違った雰囲気なのは間違いない。半分はゲームの中の描写だし。バーチャルと

リアルが交互に出て来て、ゲーム内はゲーム内で楽しめる内容にはなっているの

だけど・・・ゲーム内の殺人事件も、現実の殺人事件も、さほどの驚きはなく。

どちからというと、真相自体は、本格ミステリの原点に帰るような、シンプルな

謎解きって感じ。なるほど、とは思ったものの、あまり目新しさはなかったですね。

あと、瀧川が警察を辞める原因となった速水に関しても、もう少し裏でなにか

あるのでは、と勘ぐっていて、後から何かのフォローがあるのではと期待して

いたのだけど、そのまま何もなくて拍子抜け。あんな、不確かな情報だけで一人の

警官を冤罪で辞めさせて、その後何のお咎めもなし、って。引きこもった弟が

その後どうなったのかもわからないままだし。

あと、真萩とコンビを組んだ南条のキャラにもイライラさせられました。無能だと

思わせておいて実は優秀、みたいな人物なのではと真萩も期待していたけれど、

結局大事なことはすべて真萩に丸投げで、最後、手柄だけは自分のものにする(

真萩がそうして欲しいと言ったとはいえ)、最低の人間性じゃないかと思いました。

まぁ、唯一、彼の◯◯には驚かされましたけども。定年までの期間を知って、

唖然としました。

ヒロインの真萩のキャラも、なんだか芯の強さみたいなものが感じられなくて、

あまり好きなタイプじゃなかったです。出て来る登場人物がみんな、薄っぺらい

印象を受けてしまって、好感持てる人物がほとんどいなかった。探偵役の瀧川は、

推理の勘は冴えているのかもしれませんが、警察辞めて人間不信になって、

引きこもりのゲームオタクだしね・・・。

バーチャルと現実の二本立てみたいな構成や近未来という設定は、貫井さんには

今までなかったものなので、新境地と言われればそれは間違いではないのかも

しれませんが、正直、そういう作品は他にもいくらでも先行作がある訳で。

そこにもっと本格ミステリーとしての読み応えがあれば良かったのだけど、

そこもちょっと肩透かしだったし。なんか、いろいろと書き足りない感じがして、

食い足りなさがありました。貫井さんも新しい作風を模索しているのかも

しれないけれど、やっぱり私は、貫井さんには、薬丸さんや横山秀夫さんみたいな、

重厚な社会派ミステリーを書いて欲しいなぁと思ってしまいますね。

期待しただけに、ちょっと残念な作品だったかな。