ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

ほしおさなえ「紙屋ふじさき記念館 あたらしい場所」(角川文庫)

この間読んだ月光荘シリーズに続き、こちらの紙屋ふじさき記念館シリーズ

これで最終巻。好きなシリーズがどんどん終わっちゃってさみしいなぁ。でも、

こちらのシリーズも最終的には川越にあたらしい記念館が出来るので、サブタイトル

通り、新しいスタートを切ってひとまず大団円、という感じでした。月光荘

新しい形で受け継がれて行くことになったし、ほしおさんは、伝統的なものを

違う形で次の世代へ受け継いで行くことの大事さを、いつも行間から訴えている

ように感じますね。特に、川越の街にそういうものを集約させて行ってる感じ。

紙屋ふじさき記念館も、もともと日本橋にあったものが、建物の取り壊しにより

他に移ることになり、最終的には川越の蔵造りの建物をリノベーションして新

記念館として再利用することになりましたしね。昔の建物は基本の造りがしっかり

しているから、再利用出来るものが多いのでしょうね。月光荘シリーズの主人公、

守人が新記念館にやってきたら、建物の声を聞くことも出来そうです。どんな

ことを語ってくれるのかな~。本編の中でも、ちらっと月光荘の管理人のことが

話題に上っているので、そのうちニアミスしそうだなぁと思いました。もともと

日月堂の弓子さんとふじさき記念館はつきあいがありますし。いろんなシリーズ

のキャラがあちらこちらに顔を出すところも、ほしおワールドの良いところですよね。

前作で藤崎産業に就職が決まった百花は、川越の新記念館の立ち上げメンバーとして、

記念館準備室に配属されることに。館長の藤崎さんと共に新たに加わった同期の

三人と共に、準備に奔走する。そんな中、作家だった亡き父の『東京散歩』が

復刊されることに――。

コロナで大変な思いをしながら、少しづつ日常が戻って来て、最終的には新記念館

のオープンにこぎつけることに。百花は、学生の時に比べて格段に成長したように

感じました。これも藤崎さんを始めとした、周りの人に支えられて来たからで

しょうね。もちろん、本人のやる気や才能もありますし、何より、何をやるに

しても真摯に取り組む真面目さがある。藤崎産業は良い新入社員を採用したと

思いますね。まぁ、藤崎さんの推薦も大きかったのかもしれないですけど(藤崎

さんの祖母・薫子さんも口添えしたかも?)。

唯一の懸念事項だった、藤崎さんの従兄弟の浩介さんとの因縁も、最後に解消

出来てほっとしました。同じ企業内で親戚同士がいがみ合っていても良いこと

ないですからね(まぁ、ままあることだとは思いますが・・・)。

良い形で記念館が再スタート出来て良かったです。相変わらず、百花の商品開発

センスは素晴らしかったですね。アイデアが次から次へと浮かぶのがすごい。

今後はもっとヒット商品を生み出してくれそう。みんなが彼女に一目置くのが

わかります。同期からも褒められてましたからね。

あと、百花父親のエッセイに、彼女の名前の由来が出て来たのですが、それが

とても素敵だなぁと思いました。花のように愛でられる人になるよりも、花を

愛でられる人になって欲しい、という願いを込めてつけられたと。誰かに愛で

られるのではなく、自分自身で歩いて、愛でるものを探せる人になってほしい、

という父の想い。本当に、愛情深い、素敵なお父さんだったんだろうなぁと

エッセイを読んで胸がいっぱいになりました。もっと長生きして、今の立派に

なった百花の姿を見せてあげたかったなぁ・・・。

それにしても、これだけ長い間一緒に仕事をしているのに、藤崎さんと百花の間には

全く恋愛めいた感情は芽生えていないのかなぁ。ついつい、最終巻だし、少しは

そういう要素も出て来るのでは?と若干期待して読んでいたのですが・・・最後

までなかったですね^^;でも、これからもよろしくって言ってたし、今後

どうなるかはまだわからない・・・かな?お似合いだと思うんだけどなぁ。

あの紙オタクを理解してあげられるのは、もはや百花しかいないんじゃないかと思う

んだけどなー。そこだけは、ちょっと残念だった。

ま、他のシリーズでもしかしたら進展がうかがえるかもしれないし、希望は捨てずに

いようっと。