ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

秋川滝美「居酒屋ぼったくり3」/北村薫「太宰治の辞書」

どうもどうも。昨日の夜中の雷雨にはびっくりしましたねぇ。
春の天気は変わりやすいというけれど・・・。雷の音で飛び起きました^^;
みなさまも変わりやすい天気にはお気をつけくださいませ。

今回の読了本は2冊。実は今日読み終わったのがもう一冊あるのですが、
そちらは次回に。予約本が重なっていたので、軽く読めるものばかりで
良かったです。
それにしても、東野さんの新刊情報を全く勘違いしていて、予約し逃して
いたのにはショックでした。気づいた時には発売から5日も過ぎており・・・
当日予約したって30人以上待つことになるというのに。あーあ。結局
100人待ちでした。ちぇ。


では、一冊づつ感想を。


秋川滝美「居酒屋ぼったくり3」(アルファポリス
早々と三作目が回って来ました。相変わらず読みやすいので、あっという間に
読み終わってしまいました。
今回も美味しそうなお料理のオンパレード。
読んでてめっちゃお腹が空きました。空腹時に読んじゃダメですね^^;
前作で常連のみんなに振り分けられた子猫たちの元気そうな姿に
嬉しくなりました。猫会楽しそうでしたねー。
地域密着型の居酒屋だからこそ、こういう会も開催出来ちゃうので
しょうね。普通、居酒屋でだけ出会う客同士で昼間誰かの自宅に集合
してわいわい、とかなかなか出来ないですよね。特に今の時代じゃ。
昔だったらいくらでもあったかもしれないですけど・・・。
こういう常連さんたちの関係、本当に羨ましいなーと思いますね。
誰かが元気がなかったら、みんなでその人を励ましたりアドバイス
したりして元気づけようとしたり。商店街の人々みんなが家族みたいな
関係で、素敵だなぁと思います。
今回、美音さんが常連のマサさんの高血圧を知って、今までの自分の
料理の出し方が良かったのかどうか悩む回があるのですが。
普通の店主は、それを知った所で、そこまで悩まないですよねぇ。店主が
一人一人の客の体調を完全に把握するなんて無理だし。それでも、そこで何かが
出来るのではないかと思う美音さんは、やっぱりすごい人だなぁと
しみじみ思いました。とことん、その人に合った食事を提供することに
徹しようとする、そのプロ根性というか、料理人魂というか。
こういう思いで料理を作るから、美音さんのお料理は美味しいのだろうな、
と感心してしまいました。
今回も美音さんのお料理テクニックはメモしたいことがいっぱい。
牡蠣は大根おろしで洗うといいとか。チキンソテーをパリパリに作る
方法も(本文ではなく章末の作者のページでしたが)、やってみたい!と
思いました。チキンはとてもよく食べるので~。火をつける前に
チキンを載せるとは、驚きました。試してみよう~。
要さんとの距離は微妙なままでしたが、美音さんの感情がちょっとづつ
変わって来てるのがわかるだけに、今後の展開がますます楽しみに
なって来ました。次作が待ち遠しいです。


北村薫太宰治の辞書」(新潮社)
あの円紫師匠と私シリーズの最新作!!まさかこんなに年月が経って
続編が読めるとは、本当に嬉しい驚きでした。絶対もう出ないと思ってましたもん^^;
ただ、純粋な続編って感じではなかったですね。あの頃からリアルタイムで
時は流れていて、大学生だった『私』は出版社の編集者としてバリバリ働きつつ、
プライベートでは結婚して一児の母となっている。旦那さんの職業や
馴れ初めなんかは一切出て来なかったので非情に気になるところでは
ありましたけれど。でも、とてもいい夫婦関係が築かれていることは
行間から伺えるので、幸せそうで嬉しくなりました。そして、文学に対する
情熱もあの頃のまま。大学の国文科を卒業して出版社の編集者になる、というのは
非情に彼女らしい人生なのではないでしょうか。あるいは、北村さんご本人の
ように国語の先生とか、国文学の研究者とかって道も似合いそうではある
けれど。
作品は、三作の中編が収められています。正直、一作目を読んだ時点では
作品自体にもいまいちピンと来なかったですし、これが本当に円紫師匠と私
シリーズの一作なのかどうかというのも半信半疑でした。というのも、シリーズ
キャラはまったく出て来ず、主人公の一人称が『私』というだけの、全く関係ない
作品とも読めるからです。主人公は年取っているし。ただ、文学に対する熱意
だけは似通っているから、やっぱりそうなのかな?とも思ったりして。
でも、続く二作目で彼女の大学時代の親友正ちゃんが出て来て、『キターー!』
って感じでした(笑)。ああ、やっぱりこのシリーズなのね!みたいな。
名前だけだけど、江美ちゃんの名前も挙がって嬉しかったです。
そして、三作目で満を持して真打ち登場!といわんばかりの(?笑)円紫師匠登場!
に更にテンションが上がりました(笑)。二人の師弟関係が変わらず続いているのが
嬉しかったですね。円紫師匠はすごい落語家になっているし(当然真打ち)。
『私』にとって円紫師匠は、いつまでも謎を解いてくれる名探偵のままなんですね。
迷った時、立ち止まった時に、道標となってくれる存在がいるって、本当に
心強いだろうな、と思う。配偶者や家族とも違う、絶対的に信頼出来る存在。
ただ、残念だったのは、今回の作品は今までのような日常の謎をテーマに
したミステリーではなく、太宰治をめぐる書物探求の物語だというところ。
出来れば、現代版『日常の謎』系ミステリーを是非書いて頂きたかったなぁ。
だって、このシリーズは、今現在ミステリを読む人間なら誰でも知っている
日常の謎』系ミステリーの原典なのですから。このシリーズが今のミステリー界
にもたらした影響の大きさを考えると、やっぱりそっちの方が読みたかったなぁ、と。

それにしても、最近やたらに太宰治ブームじゃないですか?この間のビブリア
でも取り上げていたし、今回もだし。火付け役はやっぱり又吉さんでしょうか。
今回、二作目の『女生徒』に又吉さん本人と彼がテレビで言った言葉が出て
来て、余計にそう思いました。太宰も空の上で又吉さんに感謝しているのでは(笑)。
今回、この作品を読む直前に、たまたまananの読書特集の回を読みまして。
そこに、又吉さんご本人がこの本を推薦していて、その理由の一つに『自分が出て来る』
とおっしゃっていたので、読むのを楽しみにしていたんですよね。又吉さんも
自分の名前が出て来て嬉しかったでしょうね。前から北村作品を読まれていたかは
わからないけれど・・・。又吉さんほどの読書家ならば当然北村さんの素晴らしさは
知っていたとは思いますが。
太宰のエピソードは、知れば知る程意外な面がたくさん出て来て面白いですね。
私自身はそんなに太宰に興味はないのだけれど、こうして太宰関連の小説を読むと、
俄然興味が出て来てしまいます。
『女生徒』が、ある女性の実在の日記をほぼそのまま引用して作品にしている
ところにびっくり。それって、太宰の作品って言っちゃっていいの!?って
感じもしますけれど。ちゃんと小説として成り立っているのであればいいのかな。
引用元を記す、記さないの違いで、盗作とも思えてしまう、という所には
考えさせられてしまいました。
寺内寿太郎の『生れてすみません』を、太宰は自分の作品に引用元として
記しませんでした。そのことで生まれたその後の悲劇に胸が痛みました。寿太郎は
太宰のことをどう思って死んでいったのだろうと考えると・・・。

でも、今回一番楽しかったのは、やっぱり『私』と正ちゃん、『私』と円紫
師匠の会話の部分。正ちゃんが、二十年以上経ってもあの頃のままの性格なのが
嬉しかったです。ただ、悲しかったのは、『私』に貸した本を、正ちゃんが
『返さなくていい』と言ったこと。この年になると、友だち同士でも
そう簡単に会える訳じゃなく、次にいつ会えるかわからないから、という、
年月と環境による二人の関係の変化がちょっぴり寂しかったです。どんなに
仲が良い親友同士でも、やっぱり月日が関係を変えてしまうものなんですね・・・。
それぞれの人生を歩んでいるのだから当たり前なのだけれど。

今までのシリーズとは全く雰囲気が違ったけれど、シリーズのその後が読めた
ということだけでも十分感涙ものでした。
今度は日常の謎系もので書いて欲しいなぁ・・・って、さすがにもうこれ以上の
続編はないか^^;