ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

「禁断の罠」(文春文庫)

『禁断の罠』をテーマにしたアンソロジー。米澤さん、有栖川さん目当てで借り

ましたが、どれもなかなか面白かったですね。気になりつつも未読の作家さんの

作品も読めたので、収穫はあったかな。

誰かを罠にかける(かけられる)のがテーマなだけに、後味悪いものが多かった

かな。

 

では、各作品の感想を。

新川帆立『ヤツデの一家』

三代続く政治家の家系に生まれ、兄と妹を押しのけて父親の地盤を引き継いだ真実。

父の後妻の連れ子である渉とは体の関係にある。渉は、真実が不細工でも、金と

権力目当てにすり寄って来る。ある日渉が美しい妹の優芽とも付き合っていること

を知って逆上した真実は、別荘で渉を手にかけて殺してしまう。しかし、改めて

別荘に行くと、なぜか生きた渉がそこにいて――。

屈折した真実の性格が災いを呼ぶことに。ラストで妹から告げられる渉に関する

ある事実が皮肉でした。優芽の性格は想像した通りだったな。

 

結城真一郎『大代行時代』

社会人8年目の銀行員の私に、今年は一般職の内海さんと総合職の猪俣くんという

二人の後輩が出来た。内海さんは気の利く愛想の良い期待の新人だが、猪俣くんは、

言われたことしかやらず、覇気のないZ世代代表みたいな新人だった。しかし、ある日

突然内海さんが辞めてしまう。その後、駅で偶然内海さんと再会した私は、猪俣

くんに関する意外な事実を告げられて――。

何でも代行すればいいってものじゃないとは思いますが・・・内海さんや猪俣くん

の気持ちもわからなくはないです。でも、それでも自分に鞭打ってでも、そこは

自分でやらなきゃダメなことですよねぇ。それを乗り越えることで、人は成長する

のだと思うけどもね。こういう考えがパワハラに繋がるのかしらん。主人公の

友人がああいう形で絡んで来るとは思わなかったです。結城さんの作品読んで

みたかったから、読めて嬉しかった。予約多くてなかなか読めないんだよね。

 

斜線堂有紀『妻貝朋希を誰も知らない』

大手ファミレスチェーンのファミリーエコス内で撮られた迷惑動画が世間を揺るがせて

いる。記者の磯俣と切谷は、動画に映っている妻貝朋希とその関係者に取材を

試みると、意外な事実が判明して行く――。

始めは妻貝をとんでもないクズ野郎としか見ていなかったのですが・・・彼を

知る人々の話を聞いて行くうちに、妻貝という人間の本質が少しづつわかって行き、

最後に動画の真実が明らかになって、やりきれない気持ちになりました。切谷たち

によって、真実が明るみに出るといいのですが・・・。本当の悪人に罰を与えなきゃ

ダメですよね。斜線堂さんの作品とは相性が悪いことが多いのだけど、これは

なかなか良かったです。

 

米澤穂信『供米』

詩人小此木春雪の遺稿集が世に出た。春雪と友人関係にあった私は、遺稿集が

出る前に春雪の妻・加代子さんと会って、春雪の遺稿のことを聞いていた。その時、

加代子さんは生前の春雪本人から、遺稿は未完成ゆえ、余人に見せないようにという

遺言を言付かっていると聞いていた。加代子さんはなぜ、遺言に反するようなことを

したのか――。

妻が亡き詩人の遺言を破ってまで、遺稿集を出したのはなぜなのか。その真実を

知って、胸を打たれました。世間から叩かれようが、彼女には関係なかったの

ですね。彼女の思惑を知れば、空の上の詩人も許してくれるでしょう。

 

中山七里『ハングマンー雛鵜ー』

大学生の比米倉は、裏で元刑事の鳥海が率いる復讐代行業屋で働いている。ある日、

大学で後輩の久水から、割の良いバイトを紹介して欲しいと頼まれる。その後、

南青山で高級腕時計屋を三人組の男が強盗に入り、そこから逃走する様子がテレビ

で放送された。その映像を観た比米倉は、そのうちの一人の男の特徴的な走り方に

見覚えがあることに気づく。久水は金に困っていた――。翌日、三人組のうち二人は

捕まったが、一人は逃走したままだった。警察に捕まる前に久水を捜し出そうと

した比米倉だったが、願いも虚しく久水が死体で発見されてしまう。なぜ久水は

こんなことに巻き込まれてしまったのか。

シリーズものの続きみたいなので、これ単独だと背景がわかりづらい。ちょっと

不親切かな、と思いましたが、本編も読んでみたくなりましたね。結城さんの

作品と代行業被りしてるのがちょっと勿体ないかな(まぁ、代行の種類は全然

違いますけど^^;)。迷惑動画ネタも斜線堂さんのとちょっと被ってますしね。

中山さんは世間の評価が高いので気にはなってたんですが、このミス系だしなぁ

と手に取るのを躊躇してた作家さん。これを機に読んでみようかしらん。

 

有栖川有栖『ミステリ作家とその弟子』

逗子にいるミステリ作家の刑部を訪問した編集者の西川。約束は二時過ぎのはず

だったが、刑部の都合で三時を過ぎてしまうらしい。その時間、刑部は住み込みの

弟子の青年に文学レクチャーをするらしい。西川は、待っている間、向かいの部屋で

行われるその文学レクチャーを聞くとはなしに聞いてしまう。刑部には、編集者に

レクチャーを敢えて聞かせる思惑があった――。

刑部による、昔話に関する文学レクチャーは興味深かったです。青柳碧人さんの

例のシリーズを思い出しましたけど(笑)。弟子の目的は、まぁソレだろうなぁ

と思っていたので、その通りの結末になりましたね。