ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

秋吉理香子「月夜行路」(講談社)

読み逃していた秋吉作品。ブログ友達のゆきあやさんが絶賛されていたので、開架で

見つけて即ゲットして来ました(笑)。予約本に余裕がある時はこれができるから

良いのよね。今度は、期限の関係で返却せざるを得なかった作品なんかも再チャレンジ

しようっと。

さて、本書。いやー、面白かったです。夫との冷え切った関係や、言うことを

聞かない二人の子どもたちとの生活に疲れ切った主人公の涼子は、誕生日前日の深夜、

書籍編集者の夫の携帯に、女性かららしき不審なメールが来ているのを見てしまう。

その直後、その相手と思しき人物から電話がかかってきて、夫は家を出て行って

しまう。理由は『担当の先生から仕事で呼び出された』というものだった。

明らかに嘘だとわかる言い訳で出て行った夫の行動に、かねてから夫の浮気を

疑っていた涼子は、我慢出来ずに家を飛び出した。向かった先は、以前、夫の上着

のポケットで見つけた、浮気相手からもらったと思われる名刺に書かれていた

銀座のクラブだ。しかし、クラブが入った建物の前に来た時、一階に入っている

バーの店員に、客と勘違いされて中に引き入れられてしまった。そこで涼子は、

文学好きの、美人だが性別男のルナママと出会い、話に引き込まれて行く。話し

やすいママに愚痴を聞いてもらっているうちに、涼子は、過去の忘れられない

恋愛相手、カズトにどうしても会いたくなり、カズトを捜す旅に出ることに。

すると、なぜかルナママも一緒について行くと言い出して――。

主人公の涼子と一緒に旅する、ルナママのキャラクターが抜群に良いですね。美人で

聡明で、文学好きで、名探偵。涼子との関係もとても良かったです。なんで

ここまで初対面の人間だった涼子に良くしてくれるんだ!?といろいろ腑に落ちない

ことがたくさん出て来るのだけど、最後の最後で、その理由が明かされます。

もう、いろんなことが全部、目から鱗の思いで読みましたね。ママの正体含め、

終盤は驚きの連続でした。自分には何もない、と卑下する涼子に、優しく語り

かけたママの言葉の数々が、すべてが明らかになった後で、胸に鋭く悲しく

突き刺さりました。全部の言葉に、含蓄があった。ママのやるせない思いがあった。

そうしたママの思いの裏で、涼子がどれだけ幸せだったのかを痛感させられることに

なりました。始めは、誕生日の前日に出かけてしまう夫に憤りしか覚えていなかったの

ですけどね。でも、専業主婦がいきなり何日間も旅行に出て、家族から捜索願

とか出されないのかな?とかいろいろ疑問を覚える要素はあったのですよね。

そりゃ、一応ラインは一通送ったけども。あれだけじゃ、何が何だか家族は

わからないだろうし、心配するだろうってね。

あと、カズトを捜す過程で訪ねたお店で、いちいちママが散財するのも、いくら

銀座のバーのママだからって、そんな派手にお金使えるものなの!?と心配に

なったりもしたのだけど・・・それも、最後に明かされるある事実によって、

溜飲が下がりましたね。ちゃんと、現地にお金を落とすところが粋な人だなぁと

思いました。あと、ダーリンの正体にも驚かされたなー。

途中途中で出て来る文学蘊蓄も楽しかったし、それぞれの話に出て来るミステリ

部分も思わぬドンデン返しがあったり、ミステリ的な小技がたくさん使われていて、

どこを読んでも楽しかったです。ママが文学スポットに出会う度に浮かれてる

ところが可愛らしくて微笑ましかったな。

ママは、涼子に対しては少なからず思う所はあったと思うけど、一緒に旅を続ける

うちに、彼女のことが本当に好きになって行ったんじゃないかな。もちろん、

涼子は純粋に、ママのことが大好きになったと思う。二人の関係が今後どうなるか

はわからないけど・・・このまま、友情が続けばいいなぁと思う。

私も、ママのことが大好きになりました。また会いたいなー。ちょっと、古内一絵

さんの、マカンマランシリーズのシャールさんを思い出しました。物知りで、慧眼で、

迷える人に優しくアドバイスしてくれるようなところが。

大阪の街を巡るロードノベル的な要素もあって、そこも楽しかったところのひとつ。

大阪は昔一度だけ行ったことがあるのだけど。また本場のたこ焼き食べたいなぁ。

とっても素敵な作品だった。読めて良かった。ゆきあやさんありがとう!