ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

瀬尾まいこ/「温室デイズ」/角川書店刊

瀬尾まいこさんの「温室デイズ」。

中学三年のみちると優子が通う宮前中学校は、卒業式を前に荒れていた。不良たちは我が物顔で
校内を闊歩し、窓ガラスは割られ、暴力が横行する。そんな中、不良グループのリーダーである
伊佐瞬からの告白を断ったことで、優子がいじめの標的となってしまう。正義感の強いみちるは
終礼の際に、いじめから優子を守ろうという意図から優子をかばう発言をする。そして、次の日
からみちるへの執拗ないじめが始まった――。


学級崩壊、いじめ、という重いテーマなのに、いじめる側、いじめられる側、どちらも
とても淡々と描かれているので、重苦しい印象はありません。けれど、その中身はやはり
とても深刻で深淵な問題を含んでいます。現代社会で騒がれる学級崩壊。荒れる生徒、
それを止めもせず、受け入れてしまう学校側、現状を打開しようともせずただ漠然と
授業を行うだけの教師――私が同じ年齢の時とは比べ物にならない位、学生と生徒と
学校の関係は変わってしまった。それがとても淡々とした語り口で語られる為、余計に
空恐ろしく感じられました。誰もそれが異常だなんて思わない事実。標的が決まったら、
誰もが当然のごとくに同じ人物を攻撃し始める。それが悪いことだなんて思いもしない。
そんな中でみちるの存在は一筋の光明のようでした。たった一人でも学校をちゃんとしよう
と思うこと。みちるのやり方は、優子が言うように最悪の形だったかもしれない。みちるの
言葉は誰の心にも響かなかった。教師でさえ。そんな悲しい事実に直面しても、逃げなかった
みちるはすごい女の子だと思う。私だったら、きっとこんな風に戦えないと思います。
みちるが小学生の時にいじめをした側だったからこそ、耐えられたのかもしれませんが。

みちると優子の関係は面白いですね。優子もかなり変わっている。普通、優子の立場で
あったら、小6の時のみちるに憎しみを抱くものじゃないでしょうか。やはり、甘やかされて
温室の中でぬくぬくと育ったせいで、ちょっと感覚が違うのでしょうね。でも、二人の
関係はとても良かった。みちるがいじめに遭ってる時、その場にはいなくても二人の心は
繋がっていたから、なんだかほっとしました。これで、優子までみちるをいじめる側に
ついたらもっと暗くて救いのない話になっていた気がします。

いじめがいけないとか、学級崩壊が問題だとか、そんなメッセージ性はこの作品からは
全く伺えません。いじめを受けるみちるがとても淡々とそれに耐えるからかもしれません。
もっと復讐とか自殺とか考える子だったら、きっと陰陰鬱々とした話だっただろうなぁ。

今回の爽やか少年はパシリの斎藤君ですね。自らパシリを申し出て、ちょっとづつクラスに
味方を増やす、というやり方がニクイ。彼はやっぱりみちるの中のヒーローだったんですね。
スクールサポーターの吉川はなんだかかなり情けなくて、結局正体が掴めず仕舞いだった
けど、ラストの頑張りにはちょっと感動してしまった。ナイフはいかんですけどね^^;
教師も生徒もほとんどがろくでもない人間だったけど、ちょっとづつみちるの味方がいた
のに救われた気がしました。

ただ、優子の伊佐君に対する行動はちょっと酷いですね。これは完全に誤解しちゃうよ
な~・・・。まぁ、今まで彼がしてきたことからすると、差し引きゼロにもならない
でしょうけど。自業自得って感じですかね。優子の真意を知った後の彼がちょっと哀れ。

いつもの瀬尾作品とは違って癒し系というのではないけれど、瀬尾さんらしい救いの
光が見える佳作でした。