ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

森見登美彦/「< 新釈 > 走れメロス 他四篇」/祥伝社刊

森見登美彦さんの「< 新釈 > 走れメロス 他四篇」。

中島敦山月記」、芥川龍之介「藪の中」、太宰治走れメロス」、坂口安吾「桜の森の
満開の下」、森鴎外「百物語」――文学史に残る名作短編たちを、文学界のニューウェーブ
森見登美彦が自己流アレンジした傑作短編集。


五篇の中で原典を読んでいるのは「山月記」、「走れメロス」、あとこの作品の為に
慌てて読んだ安吾の「桜の森の満開の下」。元ネタを知らないと、一体どこがアレンジ
されているのかよくわからない為、楽しみは半減かもしれません。まぁ、話自体は単独
で読めるようにはなっているので大した問題ではないのですが。


とりあえずそれぞれの短評を。


山月記
これは国語の教科書に載っていて印象深い作品だったのですが、元ネタがわからなく
なる位脚色されてるような。「こんな話だったっけ?」とずっと首をかしげながら読んで
ました。確か虎が出てきたような覚えが・・・何故に天狗??斉藤のキャラは強烈ですね。
全編に亘ってくだらないですが、ラストは悲惨な結末ですよね?^^;


「藪の中」
これは結局何が書きたかったのかよくわからなかったです。恩田さんの「Q&A」を思い
出したのですが。何かの事件が起こって、それぞれにインタビューしてるのかと思って
しまうあたり、ミステリ読みの発想ですよね^^;映画のラストシーンでの証言が三人三様
なのがキモなんでしょうね。一体誰が正しいのか。三人が嘘を吐いているのか。真相は
わからないままなので、ちょっと消化不良な感じ。


走れメロス
これはダントツに面白かった。元ネタからここまで違った解釈をするとは(笑)。太宰が読んだら
一体どう思うんでしょうねぇ。いや、ほんとにくだらなくてオモチロイ。桃色のブリーフ・・・。
是非ともステージの上で男三人がピンクのブリーフ姿で踊り狂っている様を見学してみたい
ものです(笑)。図書館警察が出てきたのも嬉しかったですね。そして須磨さんも!既存の
作品とかなりリンクしているので、読んでいる人には嬉しい作品かな。


桜の森の満開の下
安吾のこの元ネタだけは、本書を読む前に読んでおきたいと思い、図書館で借りて読んでおき
ました。桜の持つ美しさと、そこはかとない恐ろしさを実に上手く描いた情緒溢れる秀作でした。
が、森見バージョンは正直好きじゃなかったです。男と女の描写も物語もなんだか中途半端な感じ。
女はもっと男をダメにしていくのかと思ったら、あげまんだし。自分が恩恵を被る為に男を応援
してたのかもしれないけど、結果的に男は人気作家になる訳ですから。精神的には追い詰めて
行ったのでしょうけど。男が女を捨てる経緯も唐突で、なんとなく腑に落ちなかったです。
原作の妖しさをもうちょっと出して欲しかったなぁ。


「百物語」
これもさっぱりわからなかった。元ネタも読んでないし。森見さんが出て来たのにはびっくり
しましたが^^;そしてまた斉藤が・・・。本書の短編の共通するテーマは「斉藤秀太郎」?(笑)
百物語なだけに、ラストはホラー的効果を狙ったのかもしれないけれど、いまいちピンと
来なかった。これなら「きつねのはなし」の方がずっとぞくぞくしたなぁ。



う~ん、それなりに面白かったのもありましたが、正直期待していた程楽しめなかった(期待が
大きすぎたか)。
やっぱり「走れメロス」みたいにくだらないのを追求した作品をもう少し書いて欲しかったかな。
無理矢理古典を持ってこなくても、森見さん独自の話を書いてくれた方が私としては嬉しい。
独特の世界観と豊富な引き出しを持っている人なんですから。
ただ、既出の森見作品とたくさんリンクしているので、森見ファンならば楽しめる一冊だと
思います(って、あれ、私も森見ファンなんだけど^^;)。
読み逃している元ネタ作品(「藪の中」「百物語」)もちゃんと読んでみたいと思いました。
こうやって、本書を機に日本の文豪の作品が見直されるというのも森見さんの狙いの一つ
なんでしょうね。