ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

大崎梢/「片耳うさぎ」/光文社刊

大崎梢さんの「片耳うさぎ」。

関東北部仲上村にあるもと庄屋の名家・蔵波邸。父親が失業してマンションを出ることになり、
住む家の目処が立つまで父の実家である蔵波の大屋敷に居候することになった小学6年生の奈都。
しかし、一月を過ぎてもその大きな家の雰囲気に馴染めず苦痛ばかりを感じていた。父は職探しで
常に家を明けていて、母だけが心のより所だった。そんなある日、母方の祖母が体調を崩し週末
まで帰って来れない事態に。蔵波一族が生活する大きなお屋敷の中で孤立してしまうと暗い気持ち
になっていた奈都は、クラスメートの祐太のおねえさんである中三のさゆりを紹介される。さゆりは、
週末まで一緒に泊まってくれるという。蔵波家に興味津々のさゆりは、夜中に奈都を連れてお屋敷
探検に。屋根裏に上がれる階段を発見した二人は探検を続けるが、人影に気付いて慌てて逃げ帰る。
翌日、屋根裏に忘れてしまった奈都のカーディガンと供に、片耳だけのうさぎのぬいぐるみが文机
の上に。片耳のうさぎは蔵波家にとって忌むべきものだというのだが・・・爽やかな感動が広がる
青春ミステリー。


あらすじで異様に時間がかかってしまった^^;大崎さんのノンシリーズです。主人公は小6と
中3の女の子コンビなので、ジュヴナイルと云ってもいいような作風。ミステリとしてはゆるい
というのを聞いていたので、どうかなと思いながら読みましたが、いやいや、とても面白かった!
始めは確かに主人公・奈都が蔵波屋敷に対してぐちぐちいじいじしているし、物語もゆっくりと
進むので多少いらいらした部分もありましたが、さゆりの明るいキャラに引きずられ、奈都
自身も少しづつ屋敷や蔵波の人々に心を開いて成長してゆく過程がとても良かった。

お屋敷に存在する隠し階段や屋根裏部屋や、奈都の記憶に残る秘密の部屋など、ワクワクする
ような要素がたくさん盛り込まれているし、古くからの言い伝えや、過去に起きた事件との関わり
など、お約束といえるようなミステリ要素も程よくはさまれていて楽しめました。
さゆりと奈都のコンビがとても良い。確かにミステリとしては大した謎解きというのはないの
だけど、何より優れているのは、事件の謎を解くのが中三のさゆりではなく奈都だということ。
始めは甘ったれで、いろんなことから逃げていた奈都が、いくつかの冒険と蔵波家の真実を知る
ことで成長し、最後には自分で事件の真相に気付ける賢さを披露する。最後の屋根のシーンなど、
奈都がとても強くたくましく感じられ嬉しくなりました。

雪子伯母は最初何て嫌なキャラなんだろうと、奈都と一緒に嫌悪を感じていたのだけれど、
最後には何て素敵な人なんだろう、に変わりました。奈都自身も雪子を理解することで、お屋敷
に対する引け目のようなものから解放されたとも云えるので、彼女はとても重要な人物ですね。
秘密の部屋の謎がなんとも切なかったです。もっと早くに真実がわかっていれば、いろんな
ことが違っていたのだろうな。
勝彦爺と奈都のやりとりも良かったな。なんだかんだいって、孫が可愛くない祖父なんて
いないんですよね。

さゆりさんについても、すっかり騙されたという感じ。奈都とはとても仲良しになりそうです。
このコンビでまた是非続編を書いて欲しいですね。できれば、次は同級生の祐太君ももうちょっと
活躍させてあげて欲しいです。奈都のことを心配する優しい少年なのに、ほとんど出番が
なかったので^^;

読後もとても爽やか。大崎さんらしい、ほんわかしたミステリーでした。