ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

紀田順一郎/「古本屋探偵の事件簿」/創元推理文庫刊

紀田順一郎さんの「古本屋探偵の事件簿」。

神田神保町の古本屋『書肆・蔵書一代』には、主人・須藤が出した『本の探偵――何でも見つけ
ます』という広告を見て、次々と目当ての本を探す依頼人がやってくる。ある日、馴染み客の
津村が、須藤の元にやってきた。幻といわれる稀覯本『ワットオの薄暮』の初版本を手に入れ、
江戸川橋図書館に寄託したという。しかし、金が要り用になり、一時的に引き戻して質草にする為
須藤と供に図書館に引き取りに行き、本を収めた桐箱をあけ帙をあらためると、預けた筈の本が
古雑誌に変わっていた。津村が預けて本がなくなるまでに閲覧した人物は三人。その中に本を
すり替えた犯人がいるのか?須藤は事件解決に乗り出した――(「殺意の収集」)。三つの中編
と、長編「夜の蔵書家」を収めた珠玉の古書ミステリ―集。


以前から書架で見かける度に気になっていたけれど、その分厚さと、なんとなくとっつきにくそうな
イメージがあって手が出せずにいた作品。でも、最近結構分厚い本も抵抗なく読めるようになって
来たところなので、これを機にえいや!と手を出してみました。

いやー、思った以上に時間がかかってしまいました^^;そんなに読みにくい文章と云う訳でも
ないとは思うのですが、すらすら読める部分とそうでない部分が交互に出て来る感じで、なかなか
思うようにページが進まず、ちょっと苦戦しました。

ただ、内容的にはなかなか本好きのツボを抑えたというか、古書蒐集をされる方なら特に身近
に感じられる作品なのではないでしょうか。私は蒐集家ではないので、本書に出て来るマニアな
人々の言動には感心するやら唖然とするやら。一作目の『殺意の収集』に出て来る津村からは、
『私は本探しの極意は熱意ではない、殺意だと思います』というとんでもない名(迷?)言が
飛び出しています。その蒐集にかける熱意はある意味狂気の沙汰とも言えるものです。古本即売会
に行って目当ての本を手に入れる為にダッシュする須藤を始めとする古書店主たちにも驚かされ
ましたが・・・古書店を営むには体力も要るんですね(笑)。ラストに収録されている対談では、
著者の紀田さんは本書に出て来る愛書家たちについて『限りなく現実に近い創作』とおっしゃって
おられるので、かなり実態に近いのでしょう。うーむ、すごい世界だ・・・。

本を探すミステリーということで、軽めの作品なのかと思っていたら、想像以上に事件は重く、
しっかりした構成の重厚なミステリでした。殺人も出て来るし。古書業界の内情なんかも伺い
知れて、なかなか興味深く読めました。ただ、人物関係やら基本設定やらがなかなか頭に入って
来なくて、混乱しながら読んでいたせいか、解決編を説明されても「ふーん」って感じで
いまひとつピンと来なかったものが多かった^^;最初の『ワットオ~』なんかはわかり
やすかったのですが。作品としては一番出来が良いであろうラストの長編『夜の蔵書家』も
しかり。良くできた失踪ものなのだけど、登場人物がたくさん出てくるので「これ誰だっけ?」
状態で混乱しながら読んでいたので、読み進めるだけで精一杯で、なんとなく楽しみきれ
なかったところがありました。こういう作品は長編よりは短編の方がすっきりしてて良いの
かも、と思いました(私のアホな頭では特に・・・)。『夜の~』は単独でノベルスとして
発表されたものをそのまま収録したそうなので、言ってみれば二冊分を一挙に読んだことに
なるんですね。どうりで時間がかかった訳だ・・・^^;

古本屋探偵の須藤や、その助手の俚奈、俚奈の祖父の小高根老人なんかの主要な登場人物の
キャラ造形は良かったのですが、それ以外の須藤の元を訪れる依頼人や関係者たちがどうも
こぞって好感が持てない人物ばかりで、これでは愛書家全体の人柄が誤解されてしまうのでは・・・
と変な心配をしてしまいました^^;まぁ、どんなジャンルでもマニアというのはいわゆる
偏執狂な訳で、偏屈なところがあるものなのかもしれませんが・・・(偏見?^^;)。

少々読み辛さに苦戦して時間はかかりましたが、古書に纏わる蘊蓄もふんだんに盛り込まれて
いて、知らない世界だけに興味深かったです。本好き、ミステリ好き人間としてはなかなか
楽しめる一冊でした(長かったけど・・・^^;;)。