ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

森絵都/「DIVE!! 下」/角川文庫刊

森絵都さんの「DIVE!! 下」。

オリンピック代表に内定が決まった要一。しかし、日水連の裏事情による決定に納得がいかず
悶々と過ごす。要一は日水連会長の前原に直談判に行く決心をする。要一の願いが聞き届け
られ、内定は一度白紙に戻され、次の日中親善試合で代表選考をかけてライバルたちと戦うことに。
最終選考をかけて、少年たちの熱い戦いが始まった――。


前回の記事から大分間が空いてしまいました。ソフトカバー版で読んでいたのに、なぜか
後半部分は文庫版という変則的な読み方に・・・^^;本当は3、4巻と読みたかったのですが、
なかなか揃って借りれないので仕方なく^^;でも結果的には一気に読めて良かった。

第一部が知季、二部が飛沫だったので絶対次は要一だろうと思っていましたが案の定。クールで
完璧主義の要一君の意外な性格が垣間見えて垂涎ものでした。せっかく決まった代表内定
を蹴って、正々堂々とライバルたちと戦いたいという熱さもとても好きだし、子どもの頃の
いたずらっ子なエピソードもくすりと笑ってしまう微笑ましいものでした。意外におちゃめな
面があるとこが良かった。一番好きなのは四部のピンキー山田君とのシンクロ飛び込みの
シーン。二人の会話が最高。お笑いコンビでいけそうなくらいです(笑)。そこにツッコミ
を入れる夏陽子がまた可笑しい。夏陽子のキャラは後半に行くにつれてどんどんおかしな
方向に行ってたような・・・。夏陽子と要一って、実は似たタイプのような。一見クールで
融通がきかない性格なのかと思いきや、実は誰よりも熱くて人情深くて、人のことを良く
見ているし、お笑いの要素も持っているという(笑)。こういうタイプは指導者向きなんで
しょうね。要一君も将来はそっち方面で能力を発揮しそうな気がしますね。

圧巻はやはり四部のオリンピック選考をかけた試合のシーン。一巡するごとに、選手たちの
順位が微妙に変化して行って、こちらまで次はどうなるのかドキドキしました。高熱の
要一君は、飛沫の腰は、知季の四回転半は・・・!?彼らの一回のダイブに一喜一憂。
また森さんの各選手のダイブの描写が絶妙で、一瞬にかける緊迫感が見事に表現されている。
スポーツ小説で最も大事なのはそのスポーツを行っているシーンでどれだけ臨場感
が出せるか、という点だと思うのですが、その点に関しては文句のつけようがない。
たった1.4秒にかける選手たちの心情や動作が手に取るように迫って来ました。周りの
歓声から切り離された、たった一人の静寂の世界での競技。あるのはただ眼下のプールと
飛び込む自分。もともと飛び込み競技を観るのは好きなのですが、本書を読んでますます
間近で見てみたくなりました。知季の弟弘也が応援にきて退屈だ退屈だと愚痴をこぼす心情が
理解できなかったです。あんなに見ていて緊迫感と爽快感を感じる競技なのに。
選手たちが素晴らしいダイブを見せても何とも思わないのかなぁと首をかしげるばかり。
まぁ、ロック音楽なんて正反対のことをしている位だから、スポーツにはあまり興味がない
のかもしれないですが。なんだかんだいって、兄のことを応援しているのはわかりましたけど。
でもやっぱり最後まで好感は持てない弟でした^^;

とにかく、これぞスポ根!これぞ青春!青春小説の金字塔などと称されているのも頷けました。
個々のキャラ造詣が本当に巧い。知季、飛沫、要一、三人三様魅力溢れる少年。個人的には
ピンキー山田改めキャメル山田君がツボでした(笑)。後編でこんなにいいキャラになるとは。

どうやら映画化されるようなので、公開前に読めて良かったです。
面白い青春スポ根小説をお探しの方、是非この本を手に取りましょう。