ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

松尾由美/「人くい鬼モーリス」/理論社刊

松尾由美さんの「人くい鬼モーリス」。

高校二年の村尾信乃は、義父から夏休みのアルバイトを紹介され、避暑地の別荘にやってきた。
バイト内容は、そこで三週間10歳の少女・芽理沙の家庭教師をして欲しいというものだった。
しかし、本当のバイト内容は家庭教師などではなく、芽理沙によって引き合わされた『人くい鬼』
の世話をするというとんでもないものだった。その姿はこの世のものとは思えない恐ろしい姿を
しているが、芽理沙によると大人には姿が見えず、人に危害も加えない穏やかな性格なのだという。
半信半疑ながら別荘での生活を始めた信乃だったが、彼女たちの別荘を中心に不可解な死が相次
いで起こる。不思議な生き物モーリスと少女たちのひと夏を描いた青春ミステリー。ミステリYA!
シリーズ。


うん。これは結構好きでした。主人公がひと夏のアルバイトに訪れた別荘で出会う美少女と
奇怪な生き物『モーリス』。この『モーリス』自体のキャラクター造詣が弱冠薄いように感じた
のは不満でしたが、一見この世のものとは思えない不気味な風貌のこの怪物の存在が、次第に
なんだかとても弱々しく哀れに思えて、最後には愛おしささえ感じるようになりました。
それだけにこの怪物のラストにはとても切ない気持ちになりました。
そして、このモーリスの食事方法が現実に起きる死体消失事件と巧く絡んでいて、なかなか面白い
ミステリになっています。ファンタジックな結末になるかと思いきや、きちんとミステリとしての
体裁を保っているところは評価したい。ただ、そのミステリ部分の出来というといまひとつ
腑に落ちない印象はあったのですが。まぁ、YA向けを考えるとこれ位でもいいのかもしれません。






以下ネタバレ注意です。未読の方はご注意下さい。










本編中にいくつか謎を残したまま事件が解決してしまうので、弱冠消化不良の据わりの悪さを
感じていたのですが、エピローグ部分できちんとそれに触れられているのですっきりしました。
ただ、怪我をした芽理沙を前にして泣き叫ぶ信乃の行動が、彼女が芽理沙を想っていたからだけ
ではなかったという部分には腑に落ちないものを感じました。いきなりそこで彼女が彼女で
なくなってしまい、芽理沙の母親や他の人物が乗り移ったというのが唐突すぎて理解できなかった。

それに、せっかくあそこまで深い絆で結ばれた二人だったのに、その後一度も会うことなく
別の人生を歩むというのを知ったことも悲しかった。モーリスに関してもしかり。その辺は
はっきり書かずにぼかして欲しかった気もする。でも、それでこそひと夏のほろ苦くも忘れ
られない思い出の1ページとして色褪せずに残るのかもしれませんが。






モーリスと少女たちの交流が瑞々しく描かれていて、なかなかの良作でした。装丁もとても
凝っていて美しい。久しぶりに満足できるミステリYA!作品でした。