ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

島田荘司/「御手洗潔のダンス」/講談社文庫刊

島田荘司さんの「御手洗潔のダンス」。

空を飛ぶ人間の絵ばかりを描いていた画家・赤松稲平が地上何十メートルもの上空で電線に
引っかかって死んでいた。それはまるで、彼が描く絵のように空を飛んでいるかのような姿
だった。そして、それと時を同じくして付近の公園で赤松の妻で有名ファッションブランド
社長の氷室志乃が発狂して彷徨っているのが発見された。また、その前夜に東武伊勢崎線
竹ノ塚行き最終電車に引きずられたロープの先に巻きついた人間の腕が見つかっていた。
赤松の友人だという青年から事件の調査を依頼された御手洗と石岡は、事件解明に乗り出す
(「山高帽のイカロス」)。書き下ろし一編を含む四作を収録。


間違えて先に「~メロディ」の方を借りて来てしまってどうしようと焦っていたら、隣街の
図書館で発見。まぁ、短編集なのでそれほど順番に拘らなくてもいいような気もしますが、
なるべく刊行順に読みたいなぁと思っていたので良かった良かった。三作の中編と書き
おろしが一編。中編はどれも行天もののトンデモトリックでした。どれも凝っていて面白
かったです。ちょっと情景が描き辛いのもありましたが^^;トリック中心の本格ミステリ
を堪能しました^^



以下、各作品の短評。


山高帽のイカロス」
いくつもの不可解な謎が御手洗さんの説明で鮮やかに解決されるところは良かったのですが、
先に述べたように機械的トリックで文章だけだとちょっと分かりにくかった。やっぱりこの手
の作品には図が欲しいですね・・・(でもぺらぺらとめくっちゃう人がいるから入れられない
のかな?^^;)。アクロバティックなトリックはこの間読んだ「疾走する死者」を思い出し
ました。短編はこういう系統が多いのかな~?妻が発狂した理由はちょっと弱いような気も
しましたが、「空を飛べると信じていた男が空を飛んでいるような形で死んでいた」という
一見ファンタジックな設定がいいですね。画家と友人の湯浅青年の関係も良かったです。


「ある騎士の物語」
これは相当無理矢理なトリックのような気が・・・本当に実現できるんでしょうか、こんなの^^;
静香のキャラは東野さんの女性キャラを彷彿とさせますね。ラストで明かされる本性にも
かなりの強かさと計算高さを感じます。これじゃ、犯人があまりにも浮かばれない・・・。
辛辣に彼女の本性を言い当てた御手洗さんの言葉に胸がすく思いがしました。女性嫌いだから
というよりも、人間の本質を見抜いたからこその発言だったように思います。人を見る目が
あるということでしょうね。でも、こういう女性がいるから女性嫌いになっちゃうのかな^^;


「舞踏病」
これまたトンデモない結末です。夜な夜な踊り始めるという奇妙なくせのある老人という謎
も奇想天外で面白い。踊りの真相はちょっとありきたり過ぎた気もしますが、いきなり
歯医者が出て来てあんな風に繋がるとは思いませんでした。ただ、歯科知識がある人間から
考えるとちょっと腑に落ちない部分もありましたけど・・・。ラストに老人医療の問題に
ついてメスを入れるような苦言が呈されていて、考えさせられます。現在の医療問題への
先見の明を感じました。こういう部分をさりげなく差し挟むところが、島田さんが『社会派』
と言われる所以なのかな、と思いました。


「近況報告」
これはもう、ファンサービスの為の一作ですね。御手洗さんの日頃の行動には私も興味津々
なので、読んでいてとても楽しかった。ただ、石岡さん同様、延々と述べられる薀蓄話は
さっぱりちんぷんかんぷんでしたが^^;ケーキ屋さんで出会った女の子とのエピソードが
とっても微笑ましい。御手洗さんの優しさが如実に現れていますね。そして、その優しさを
悟られたくないとつっぱねるところもまた素敵~~。女性ファンが多いのも頷けますね。
でも、こういうエピソードにいちいち感激する石岡さんの感激屋さんなとこも大好きだな~。
この二人は本当にいいコンビですねぇ。二人のやりとり、大好きです。




巻末のグループトークは完全に同人誌的ノリですね^^;でも、ここまで何冊か読んできて、
その手の同人誌が出るのもわかるなぁと思ってしまった。御手洗さんの女嫌いや、石岡さんの
御手洗さんへの信頼や好感情、『近況報告』で語られた「ミクロ」というマルチーズ犬が
二人が接触すると嫉妬するくだりとか、島田さん、ソレを狙って書いているんじゃ・・・と
思える位アヤシイ^^;きっとそれに狂喜乱舞して読んでる女性読者もさぞかし多かろう(笑)。
それにしても、御手洗ファンのことをミタライアン、石岡ファンのことをカズミストって
いうんですね・・・ミタライアンって、エイリアンみたいだな~すごいネーミング・・・^^;;
さしずめ私は(どちらも大好きだけれど)、やっぱりミタライアンですね(爆)。