ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

西澤保彦/「スナッチ」/光文社刊

西澤保彦さんの「スナッチ」。

昭和52年1月、東京の大学生、奈路充生は婚約者の生駒美和子と高知県高知市播磨屋橋の
交差点で待ち合わせをしていた。奈路は、美和子の両親に結婚の挨拶をする予定で来高していた。
しかし、待ち合わせ場所に現れたのは彼女の家の近所の主婦・楡咲純花で、美和子の親戚に不幸が
あり、彼女が待ち合わせに来れなくなったという。結婚の前祝にお昼をご馳走するという純花の
好意で、二人は郷土料理屋に行くことに。食事を終えて店を出て歩いている時、突然『それ』は
やってきた。全身にまとわりつく銀色の『雨』。そして奈路の意識は途切れ、再び目を覚ました時、
彼の身体は53歳になり、別の人格に乗っ取られていた。失われた空白の31年の間に一体何が――?
書き下ろし傑作SFミステリー。


前回読んだ「夢は枯れ野をかけめぐる」は西澤さんらしさがあまり感じられない作品でしたが、
こちらは久しぶりに西澤さんらしいSFミステリー。突然襲った雨によって人格が乗っ取られて
しまうという荒技設定がいかにも西澤さんらしい。しかもその襲ったモノに関しては結局最後
まで何の説明もなく終了。一体何だったんだ?と思わなくもないですが、こと西澤作品に関して
はその辺りはまぁ、突っ込んじゃいけない部分なんでしょう。ただ、それを差し引いても、今回
のSF要素はちょっと設定の甘さが目立ったように感じたのですが。ベツバオリになった人が虚弱
体質になるところまでは納得できる。サシモドされた途端にストレスで癌細胞が発生するって
いうのもちょっと苦しいけど、まぁ、そうなんだと言われれば納得するしかない。でも、ラスト
の癌細胞が○○○ってのはあまりにもご都合主義的すぎでは。しかも、それが○○によって
もたらされたものっていうのも・・・。一番疑問に思ったのは、その○○のことを何故‘僕’
が知っていたのか、という点です。‘僕’は明らかにその知識があってあえて○○を下げない
ようにしていたのがわかりますから。どこで得た知識だったんでしょうか。書物やメディアから
知ったのであればもっと広まっているはずだし。うーん。読み落とし?

‘僕’が貯金を崩して一日一食のつましい暮らしをするところは、『夢は枯れ野~』の主人公と
かなり重なる部分がありました。こちらの主人公はただただ健康の為ではありますが。身体の為に
健康食を励行するというのは、西澤さん自身も齢をとってきて、体調の為に必要だと感じている
からなのかな、と思ったのですが、あとがきで五十を過ぎて胃腸が弱くなって来たということが
書いてあって、なるほどそれでか、と思いました。というか、西澤さんのあとがきって珍しい
ように感じたのですが。今まで書いてましたっけ??








以下、犯人やラストに触れています。未読の方はご注意を。



















ミステリとしてはなかなかきっちり伏線が張ってあって面白かったです。城ノ内さんに
関してはちょっと肩透かしだったけど・・・(何かもっと事件に関わる重要な人物なのかと
思っていたので^^;)。まぁ、彼女がいたからラストが西澤さんらしからぬ爽やかな終わり方に
なっているとも云えるので、重要といえば重要なのかもしれませんが^^;

ただ、連続殺人の動機としてはちょっと弱いというか、あんまり理解できなかったなぁ。完全に
逆恨みじゃないか・・・。マザコンなんてああ嫌だ。








不満もありましたが、久しぶりに西澤さんらしいSFミステリワールドだったなって感じ。
個人的には『収穫祭』みたいな黒一辺倒のやつがまた読みたいですけどね。