ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

森絵都/「架空の珠を追う」/文藝春秋刊

森絵都さんの「架空の珠を追う」。

オール讀物」に連載され好評を博した11作の短編を収録。日常のひとコマを綴った珠玉の
短編集。


森さんの新刊。タイトルから森さんお得意の青春小説かと思ったら、短編集でちょっと面喰らい
ました。くすりと笑えるものから、ブラックなものまで非常にバラエティに富んでて、なかなか
楽しめました。一篇が短いので多少食い足りない印象もありましたが。日常のなにげない一コマ
をさらりとリアリティを持たせて描くところはさすがに巧い。ただ、だからそれで?って話が
多かったような気もしますが^^;読んでる時は面白かったけど、ひと月経ったら大部分の話の
内容忘れそう・・・(オイ)。


以下、印象に残ったもののみ短評を。


『銀座か、あるいは新宿か』
これはわかる、わかる~!って感じ。住んでる場所がバラバラの人間と待ち合わせる時、
待ち合わせ場所をどこにするかってかなり重要。みんなの中間点ってなかなか難しい。
女性ってこういう細かいどうでもいいことでいつまでも議論できるんだよね。ちなみに
私だったら新宿を選びます。

『ハチの巣退治』
これは面白かった。ジョーのキャラに大ウケ。特にハチの巣を振り回す姿を想像したら可笑しくて
可笑しくて。にやにや笑いながら読んでしまった。しかし、自分が歯医者に行ってる間に部下に
ハチの巣退治をしておけなんて酷い上司もいたもんだ。刺されて酷いことになったらどう責任
取ってくれるんでしょう。私もハチ大嫌いなので、こういう指令は絶対無理です・・・。

『パパイヤと五家宝
五家宝なんてお菓子知らなかったです。見たらわかるのかな?こういう女性心理、わかるような、
わからないような。セレブの買い物を羨ましいとは思うけど、真似したいとは思わないもんなぁ。
でも、主人公が最後には自分の買いたい物に戻るとこがいいです。きっかけが五家宝ってとこが
いいですね。そして、ラスト、誤解を受ける主人公が哀れになりつつ笑ってしまった(笑)。

『ドバイ@建設中』
ドバイは一度行ってみたいなぁ(あの6つ☆のホテルとか!←絶対無理)と思っていたセレブな
イメージの国ですが、そこまで暑いところだとは。観光する国じゃないんですねぇ。ちょっと
イメージ崩れたかも。途中ミステリ的な展開になって驚いたのですが、どうしようもないハゲで
デブのぼんぼんだと思ってた御曹司がかっこいい行動に出て、見直しました。ラストの主人公への
態度もいいですね。意外や意外のハッピーエンドで爽快。

『あの角を過ぎたところに』
これは『ドバイ~』に反して、いい話で終始するかと思いきや、ラストで落とされた。長年の
カップルが危機を迎えるきっかけって、こんなものなのかもしれない。

『二人姉妹』
私にも姉がいるので、ちょっとしたきっかけで姉妹間がぎくしゃくしちゃうのって、なんとなく
わかる気がします。でも、結局血の繋がりって大きくて、気まずくなってもいつの間にか仲が
戻ってるものなんですよね。これが他人だったら後々までわだかまりが残ったりすると思うの
ですが。でも、この二人の仲直りのきっかけが○○○っていうのにずっこけましたが^^;
女の子でそんなにソレに夢中になるものなのかなぁ。しかも姉妹で・・・。不思議な姉妹だ。

『彼らが失ったものと失わなかったもの』
こういう何気ない出来事の中に、その人の本質が出るものなんですよね。無言で淡々と砕けた
ワインの始末をする夫婦の行動が素敵だなぁと思いました。多分お互いに尊敬しあってる夫婦
なんだろうなぁ。理想です。


大人の女性の目線で捉えられた何気ない日常の世界。一作が短いのでさらっとすぐに読めてしまう
けど、どれもなかなか味のある作品で面白かったです。これだけバラエティに富んだ世界観を
作り出せる作家だとは。新たな森さんを発見した気分になりました。
ただ、冒頭の『架空の珠を追う』がタイトルになってる割に出来がいまひとつで、なんでこれを
タイトルにしたのかなぁって、そこはちょっと不満でした。単に最初の話のタイトルをそのままつけ
ちゃっただけなのかもしれませんが。例えば『パパイヤ~』とかの方が短編集としてのタイトルの
インパクトはあったような・・・。余計なお世話ですけどね^^;