ミステリ読書録

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江坂遊/「仕掛け花火」/講談社ノベルス刊

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江坂遊さんの「仕掛け花火」。

頭に猫の頭(かしら)をかぶる風習がある村に迷い込んでしまった旅人(「猫かつぎ」)、熱帯夜
に臨時列車に乗り遅れた男(「臨時列車」)、不思議な少女から願いが叶うマッチを買った男
(「マッチ棒」)、虹で小物を作る細工師(「虹細工」)、40年前に出会った花火師の思い出
を語る警部(「花火」)・・・ショートショートの鬼才・星新一が「後継者」と認めた奇才の
絶品ショートショート39編を収録。有栖川・綾辻復刊セレクション。


以前から気になっていた作家さん。ショートショートというジャンルは正直ほとんど読んだことが
なく、恥ずかしながら星新一さんの作品も一作も読んでません。だから、星氏の後継者と言われて
も両者の比較をすることはできなかったのだけれど、本書を読んで著者の江坂氏が絶賛される
理由はわかりました。たった数ページの中に、驚くほど豊富なイマジネーションと独特の
ノスタルジーやブラックユーモアが盛り込まれ、息を飲むようなオチが隠されている。39編も
あるのに、その作風は様々で、民話調や童話調、時代物、SF、ミステリ、ファンタジー、風刺物と、
くるくると万華鏡のように変わる多彩な題材で飽きることなく読めました。
残念ながらオチにピンとこないものも相当数あったのだけれど、雰囲気だけでも十分愉しめたので
あまり消化不良な印象にはなりませんでした。でも、やっぱり、個人的にはわかりやすく、ラスト
で一気に暗黒に落とされるタイプの作品が好み。よくもまぁ、こんなに次から次へと新しい発想が
生まれて来るなぁと感心しきり。作者ご本人が「ショートショートは数が必要」とおっしゃった
そうですが、ただ、数打ちゃ当たる、的な内容の薄さではないところがすごい。ほとんどの作品が
一筋縄ではいかないラストが用意されていて、ほのぼのした話かと油断していると最後に足元を
すくわれてしまう。
それぞれ、ほんの短いページ数の中にきちんと一貫したひとつの世界観が凝縮されていることに
感心しました。

独特の郷愁や哀愁を感じさせる語り口がまた良いですね。どこか懐かしい気持ちにさせる、独特
の味わいがあって心地よい。でも、その居心地のよさで読み進めていくと、ラストでどーん。
このギャップがまた良い。

印象に残った作品は、「猫かつぎ」「マッチ棒」「かげ草」「虹細工」「夢ねんど」「新しい店」
「眠りにつく前に」「開いた窓」「たまご売り」「花火」
「猫かつぎ」「マッチ棒」「かげ草」「眠りにつく前に」「開いた窓」なんかはラストの黒さが
際立ってぞぞーっと背筋が寒くなりました。「虹細工」や「夢ねんど」や「たまご売り」なんかは
ファンタジックで夢とユーモアがあって好きな作品。
「花火」はやはり全作品の中でも異彩を放っている傑作だと思います。40年前、語り手の前で
花火師が遂げる衝撃的な光景には息を飲みました。美しいけれど、グロテスク。そして、再び
現実に戻ったラストでの衝撃。きれいだけど、ぞくり。巧いなぁ、と思いました。

長らく絶版だったようですが、有栖川・綾辻復刊セレクションの企画で復刊。こういう機会が
なければ一生手にしなかった作品だろうと思うので、企画に感謝。まだまだ世の中には埋もれている
傑作作品はたくさんありそうですね。
巻末には、故星氏による貴重な解説がついていて、ショートショートというジャンルで頑張る江坂氏
への熱いエールに胸が温かくなりました。きっと、星さんもこのジャンルを受け継いでくれる人物が
現れるのを心待ちにしていたんでしょうね。なかなかこの世界で作家としての地位を確立して
食べて行けるのは難しいようで、いい書き手が現れないことを嘆いてらしたようですから。江坂氏
もやはり作家一本で食べて行くのは無理なようで、本業の傍らの作家活動のようですが、現在も
創作意欲は衰えず、精力的に作品を書き続けているとか。きっと、空の上で星氏も喜んでいること
でしょう。