ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

北國浩二/「リバース」/原書房刊

北國浩二さんの「リバース」。

美人でスタイルも抜群の恋人の美月に夢中になっている省吾。アルバイトをしながらバンド活動を
続け、いつしかメジャーデビュー出来る日を夢見ていた。しかし、最近美月の態度がよそよそしい。
省吾が以前プレゼントしたお気に入りのロックバンドのCDアルバムも人づてに返してきた。そんな時、
ライブハウスの中で若い新人スタッフ、すみれとぶつかり、持っていたCDと携帯を落としてしまう。
すみれには触れたものから未来を予知する能力があり、省吾とぶつかった時に美月から返されたCD
に触れたことで、美月が殺される『未来』を見てしまう。そのことを知った省吾は、なんとしてでも
美月を守り通すことを決意し、奔走する。しかし、彼の行為は周囲からはストーカーにしか見られず、
周りの人間は次第に彼から離れて行く。それでも、彼は只管すみれの予知を信じ、美月を守る
ことに固執した。そして、遂に美月の身に危険が――彼の一途な『願い』は果たして叶うのか?


ミステリフロンティアの『夏の魔法』がなかなか良かった北國さんの新作。帯で乾くるみさんが
『完璧』と絶賛していて期待していた作品です。タイトルから、乾さんの『イニシエーション・
ラブ』のようなラストで逆転のある作品なのかと思っていたのですが、ちょっと違いました。
正直、中盤までは主人公省吾の行きすぎたストーキング行為には完全に引いてしまったし、
彼がそこまで一途に想いを寄せる美月という女性が全く魅力的でないので、彼の行為には全く
共感出来ず、嫌悪ばかりを感じながら読み進めました。ただ、文章自体は非常に読みやすく、展開も
スピーディなのでぐいぐいと引っ張られ、気がついたら終盤まで来ていたくらい、のめり込んで
読んでしまったのですが。

はっきり云えば、ミステリとしての出来はそれほどいいとは言えないと思う。途中で明かされる
二件の殺人の犯人も、その先にある美月の事件のからくりも、ほぼ予想した通りの展開で、
ミステリとしての驚きというのはほとんど得られなかったので。美月を殺す動機に関しても
ああ、やっぱりそういうことか、と思いましたし。ただ、真犯人が本当に愛していた人物だけは
全くの予想外でしたが。その相手の人物の想い人も勘違いしてたしなぁ。でも、だったら、
父親とのあのエピソードは要らなかった気がするんですが・・・。ちょこちょこ無駄な要素は
あった気がする。すみれの母親のことも中途半端なまま放りっぱなしだったし。すみれに関しては、
彼女の能力も過去のことも、もう少し掘り下げて書いて欲しかったです。









以下、ネタばれあります。未読の方はご注意ください。













でも、真犯人の動機には切なく同情の余地がありましたし、それを知った省吾の犯人への
態度にもじーんとしてしまいました。でも、あそこまで執着していた美月を殺した犯人なのに、
動機がある人物への贖罪だったからといって、そんなにあっさり赦しちゃっていいのかなぁ
と少し首をかしげる部分はありましたが。そもそもなんで省吾があそこまで美月に執着
するのかがさっぱり理解できなかったのですけれど。それが恋だと言われると納得するしか
ないのですが^^;私には全く魅力のある人物には思えなかったですけどね・・・てか、
絶対友達にはなりたくないです。

ラストは無理矢理ハッピーエンドに繋げてご都合主義的に感じないでもなかったですが、
私はあの終章で良かったと思います。やるせない事件だったけれど、最後は前向きに未来の
夢に向かって一歩前進した省吾の姿が清々しかったです。みんなが揃って省吾にギターを教えて
くれっていうところも、そんな偶然あるかい、と思いつつ、微笑ましい気持ちになりました。

すみれが予知した1226のメモの真相や、ラストまで読んで始めて本当の意味がわかるタイトル
のつけ方など、細かい部分で小技が効いているところは良かったです。
タイトルは『反転(re-verse)』じゃなくて、『再生(re-birth)』だったんですねぇ
(いや、両方入ってるのかな?)。
これに一番意表を突かれたかも。こういうタイトルのつけ方、すごく好きです。巧いねぇ。









ミステリとしてより、その先にある人間心理やどん底に突き落とされた主人公の成長を描いた
再生譚として読ませてくれる作品でした。面白かった。乾さんの帯の『完璧』はやや煽りすぎ
だと思いますけど^^;でも、私は好きでした。
やっぱり、この作家さんは今後も追いかけて行きたいです。