ミステリ読書録

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道尾秀介/「月の恋人~Moon Lovers~」/新潮社刊

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道尾秀介さんの「月の恋人~Moon Lovers~」。

派遣社員の椋森弥生は、付き合っている恋人に嘘をつかれ、仕事先の先輩にやってもいないミスを
自分のせいにされ、自暴自棄に陥っていた。すべてに疲れた弥生は、仕事を辞め、今まで貯めた
お金を豪遊に使ってしまおうと上海に飛んだ。しかし、実際現地に行ってみると、生来の性格が
災いし、どうしても豪遊が出来ず、ボロくて愛想のない管理人の老女のいる安宿で質素な生活を
送っていた。そんな弥生は、ある日無愛想な管理人の裏の顔を見てしまい、その日が彼女の誕生日
だと知って、ケーキを買ってあげようと思い立つ。ガイドブックに載っている有名なケーキ屋を
訪れた弥生だったが、ケーキにメッセージをいれて欲しいという要望が店員に伝わらずに困って
いた。そんな弥生を見かねてか、一人の男性が助け舟をだしてくれた。お礼を言う弥生に対し、
男性はそっけなく、出会いの印象は最悪だった。しかし、その男性は、日本で話題になっている
高級家具専門の会社『レゴリス』の社長・葉月蓮介だった。この出会いが、二人の運命を大きく
変えて行く――月九ドラマのために書き下ろした原作小説。



現在放映中のキムタク主演のドラマ『月の恋人』の原作本です。ドラマは道尾さん原作ってことで
期待して初回観て、あまりにもつまらないのでその後一度もきちんと観ずにいたのですが、
ちょうど今日放映日だったので、本を読み終えたこともあり、もう一度観てみました・・・が、


おいおい、違いすぎるだろ!!


これじゃ、道尾さんが可哀想だよ。だって、あまりにも設定が違いすぎるんだもの。
しかも、出て来る登場人物だって、ほぼ原作通りなのはキムタクが演じる葉月蓮介だけ。
かろうじて中国人モデルのシュウメイが残っているくらい。原作の主人公椋森弥生は一体
どこに行った?大手家具メーカーの社長令嬢大貫真絵美は、篠原涼子北川景子に二分
されちゃってるし(篠原さんの役名が二宮真絵美、北川さんの役名が大貫柚月)。
蓮介の友人の風見だって、原作では生粋の日本人の野方風見が、ドラマでは中国系二世で
蔡風見になってるし。なんかもう、めちゃくちゃ。
原作で印象的だった巨大明太子おにぎりとかのくだりも、花火のくだりもまるっきり出て来て
ないんだろうなぁ(この辺りは、ドラマ観てないからはっきりそうだと言い切れないんだけど)。

ドラマはやたらに評判が悪いらしいけど(視聴率も初回以外は酷いらしい)、それを道尾さんの
原作のせいにされたらファンとしては納得いかない。だって、ここまで別物にされちゃってたら、
原作だなんて言えないんじゃないかと思うもの。小耳に挟んだところでは、ヒロインを予定していた
宮崎あおいにオファーを断られたせいでストーリーが大幅に変わったらしいという噂があるよう
なのだけど、だったら他のヒロインを立てればいいじゃないの。っていうか、北川景子を弥生役に
すれば良かっただけなんじゃ。それだと『ブザービート』と被っちゃうからダメだったのかな。
道尾さん曰く、いろんな制約があって原作とドラマは別のもにになったそうだけど、制約って
どんな制約だよ、って言いたくなるよ。私が思うに、道尾さんの原作をそのままドラマ化した方が
きっと月九らしいドラマになってもう少し当たっていたんじゃないかと思う。結構いいシーンも盛り
込まれているし、恋愛ドラマにしては薄味な感じは否めないけど、少なくとも今の月九の何が
やりたいのかわからないストーリー展開よりはよっぽど先が観てみたいと思えたんじゃないかな
(って、二回しか観てない人間が言っていいことじゃないかもしれないけれど^^;;;)。

これだけ呆れて怒っているっていうのは、結構面白く読めたからなんだけど、はっきり云えば、
これを道尾さんが書く必要性は全く感じない。道尾さんのカラーがどこにもないもの。強いて
云えば、アメンボのくだりくらいか。虫が出て来たってだけだけど(苦笑)。道尾さんの
作品に惚れ込んでオファーをしたのなら、少しは道尾さんらしい作品をドラマ化すれば
いいのに。なんでわざわざ恋愛小説なんか書かせたのだろう。全く、テレビ局の考えることは
わけがわからないな、もう。

でも、好きなシーンは結構ありました。弥生が上海で借りている宿屋の管理人のおばあちゃんに
ケーキを買って驚かせてあげるシーンには心が温かくなったし、蓮介と弥生が線香花火を
やるシーンには胸がキュンとしたし。弥生とシュウメイが仲良く浅草の街を散策するところも
好きだったし、蓮介が弥生の叔祖父母の元でメロン修行するところも良かった。ちょこちょこ
出て来る、巨大明太子おにぎりも美味しそうだった。
まぁ、全体的にベタな感じは否めませんし、終盤はあまりにもご都合主義な展開ですが、これが
良くも悪くもドラマ的なわかりやすいストーリーなんだと思う。道尾さんは実に器用に
『月九的な恋愛ドラマ』を書き上げていると思います。でも、やっぱり、道尾さんの作品に
期待するものではないのよね。
まぁ、普通に面白かったです。でも、これなら、他の恋愛小説家でも良かったんじゃない?

この装幀とタイトルは酷いね。いつの時代?って言いたくなるぞ(ちなみに、タイトルはテレビ局側
が考えたようです)。(『レゴリス』月の砂のことってのはへーだったけど)。
線香花火の火花の四種類の呼び方は勉強になりました。『牡丹』『松葉』『柳』『散り菊』
確かに、火の様子を思い浮かべるとぴったりはまる名前ですね。全部植物に例えるなんて、日本人
のセンスって、本当に粋で風流だなって感心しちゃいました。線香花火の火花の出方が科学的に
解明されていないってのにも驚きました。あの火花の変化が計算されて作られたものではない
なんて!ちなみに、私は松葉の時の繊細な感じの火花の出方が大好き。線香花火やりたく
なっちゃったなー(『誰が一番長く火玉を落とさないでいられるか競争』は、絶対みんなやるよね)。


ミッチー、次はミステリに戻って来てね・・・(ファンの心の叫び)。