ミステリ読書録

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山白朝子/「エムブリヲ奇譚」/メディアファクトリー刊

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山白朝子さんの「エムブリヲ奇譚」。

 

社寺参詣や湯治のため庶民は諸国を旅するようになった。旅人たちは各地の案内を
する道中記を手に名所旧跡を訪ね歩く。『道中旅鏡』の作者・和泉蝋庵はどんな本
でも紹介されていない土地を求め、風光明媚な温泉や古刹の噂を聞いては旅をして
いた。しかし実際にそれらがあった試しはない。その理由は蝋庵の迷い癖にある。
仲間とともに辿りつく場所は、極楽のごとき温泉地かこの世の地獄か。江戸――
のような時代を舞台に話題の作家・山白朝子が放つ、奇妙な怪談連作(紹介文抜粋)。



待ちに待った山白さんの二作目。やー、堪能しました。前作とはまたちょっと
雰囲気が違う作品でしたが、めちゃくちゃ好みの一作でした。日本全国の名所旧跡
をめぐって、その土地土地の旅行記を綴った折り本の作者・和泉蝋庵と、彼の荷物
持ちとして雇われた耳彦が、行く先々で不可思議な出来事に遭う様を綴った連作
短編集です。時代背景はだいたい江戸時代辺りなのかな。もうちょっと後かしら。
はっきり書かれていないのでわかりませんが。

 

作風的には旅情+幻想怪奇小説って感じでしょうか。ちょっとグロテスクな描写も
あるけれども、どこかユーモラスなところもあって、読んでいてどんどん世界に
引き込まれました。ちょっと京極さんっぽい雰囲気ですね。巷説シリーズみたいな
感じ。

 

語り手の『私』こと耳彦と、和泉蝋庵のキャラがいいですね。蝋庵の、旅に出ると
必ず迷子になってしまうという設定も面白いです。蝋庵の迷い癖のせいで、二人の
旅は常に波乱万丈。特に、耳彦に至っては、蝋庵のせいで、毎度のごとく悲惨な目に
遭いまくりで、ちょっと気の毒になりました^^;ただまぁ、彼は彼で博打癖が
あって身を持ち崩すタイプなので、蝋庵との旅に出てる方がまだ楽しく人生歩める
感じはしますけどね~。一つ所に落ち着くとね、ダメなタイプでしょうね(苦笑)。

 

一作ごとに趣向を変えて、読後感もひやっとしたり、切なかったり、気味が悪かった
り、皮肉だったりと、その都度違うので、全く飽きることなく読み続けられました。
正直、鳥肌が立つような描写も多々あったのですけどね^^;そういうのがダメな
人は、ちょっと注意が必要かもしれないです。食べ物系のが結構キツかったですね
~・・・^^;;特に『地獄』はキツかったなー・・・あと『〆』もかな。蝋庵が
普通に出された料理を食べてるのがなんとも^^;

 

まぁ、基本、気持ち悪い系の話が多かったんですが、そのエグさが個人的にはかなり
ツボでした。今回の装幀もほんとかっこいいですしね。内容・装幀・キャラ・構成、
どれも好みドンピシャって感じでした。やっぱり、山白ワールドは素晴らしい。
さすが天才○○!(もはや周知の事実かもしれないですが、一応、伏せ字にしとき
ます。もう一つの名義よりかはマイナーでしょうし)。



以下、各作品の一言感想を。

 

『エムブリヲ奇譚』
エムブリヲのビジュアル、想像すると結構エグイですが、健気に動いている様は
なぜか愛らしかったです。最後、耳彦からの恩義を覚えているところが嬉しかった。

 

ラピスラズリ幻想』
『自殺してはいけない』という老婆の言葉が、ラストでああいう風に効いてくるとは。
こういう自殺方法とは思いもしなかった。この発想はこの人ならではでしょうね。

 

『湯煙事変』
耳彦の郷愁が切なかった。最後でゆのかの顔を思い出してあげられて良かったです。

 

『〆』
これは、タイトルで完全にネタばれしているような^^;きっとこういう結末になる
んだろうなぁ、と思いながら読んでしまった。小豆が、蝋庵と耳彦に必死でついて
行く姿が健気で可愛かったのに・・・人間、極限状態に置かれると、こうなって
しまうのですね・・・悲しいです。

 

『あるはずのない橋』
これもラストは『〆』と似た読後感。終盤の橋の上のシーンでは、人間の醜悪な本性
を見せつけられて、虚しい気持ちになりました。主人公である耳彦自身さえ、
極限状態では俗悪な本性がさらけ出されてしまうので、読んでいて悲しい気持ちに
なりました。

 

『顔無し峠』
耳彦は、あのまま喪吉として身を落ち着けた方が、もしかしたら幸せになれたかも
しれませんが・・・やっぱり、蝋庵との旅を続ける道を選んで欲しかったです。
喪吉との因果関係は結局わからないままでしたね。

 

『地獄』
先に述べましたが、とにかくこの話が一番読んでて気持ち悪かった^^;ほんと吐き
そうになりました・・・。耳彦には災難だったとしか言い様がないですね。山賊親子
の醜悪なキャラ造形にムカムカしました。ラストは、因果応報、自業自得ってやつ
でしょう。

 

『櫛を拾ってはならぬ』
これは直球のホラーって感じの作品。私自身も腰に届くくらい髪が長いので、読んだ
後お風呂に入ってる時とか、ちょっと思い出して怖かった(><)。櫛を拾っちゃ
ダメっていうのは初めて知りました。ほんとに昔の人はそういう風に言っていたの
かな??

 

『「さぁ、行こう」と少年が言った』
『私』に対する婚家の態度があまりにも酷いので、ほんとにムカムカしました。
少年の正体には彼のある性質からすぐに気がついたけれど、小さい頃からそうだった
んだなーと、ちょっとくすりとしてしまいました。最後の最後までその性癖が仇に
なってるところが可笑しい。『私』との再会のシーンまで、読みたかったのにな。
もう(苦笑)。







独特の世界観にどっぷりはまって読みふけってしまいました。めっちゃ好きだなー、
コレ。やっぱり、この人は天才だなぁ。
山本タカトさんの表紙絵もぴったりですね。こういう作風の作品には、ほんと、
はまるね、この方の絵は。タイトルと表紙だけでも、飛びつく人が多そうだ。
髪の毛のようなほっそいスピン(×3)がまた装幀にはまってて素敵。前作同様、
本棚に並べて眺めたい一冊ですね。

 

ただ、一つ残念だったのは、かなり誤字脱字が目立ってあったこと。別名義の方の
作品ではほとんどそういうのがあった覚えがないので、なぜなのかなぁ、と不思議
でした。校正する人が甘いのかしら。せっかく独特の世界観がある作品なので、
そういう所で興ざめさせないで欲しかったな。