ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

芦沢央「汚れた手をそこで拭かない」(文藝春秋)

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最近気になる芦沢さんの最新作。この方、割とコンスタントに新作が出ている

みたいで、なかなか追いつけない^^;これは図書館の新刊情報に出て面白そう

だったので借りてみました。

お金に纏わるブラックよりの短編集。小さな綻びが最後に効いてくるタイプの、

じわじわと背筋が寒くなるような短編ばかり。一編のページ数もそんなに

多くはないけど、きっちりと一作ごとに小技が効いていて、なかなか読み応えの

ある短編集になっていると思います。全編、お金が絡んでいるという共通点も

あって、統一感もちゃんとありますし。雰囲気はちょっと『教場』の長岡さん

っぽいかな。あっちよりは少し救いがある感じ?(全くないのもありますが)

 

では、一作ごとに感想を。

 

『ただ、運が悪かっただけ』

工務店で働いていた時に、自分が持って行った脚立によって、人を死なせて

しまったと悔やむ夫。癌で余命僅かの妻がかけてやれる言葉は。

自分が原因で人が死んだとしたら、気に病むのは当然でしょうけど、この場合は

完全に夫のせいじゃないですよねぇ。最後の最後、妻が夫の心の負担を軽くして

あげられて良かったです。夫にとってはそれよりも辛い現実を向き合うことに

なってしまうのだろうけれど・・・。

 

『埋め合わせ』

誤って学校のプールの水を半分ほど抜いてしまった小学校教師の秀則。抜いた分の

水道代は、請求されたら13万ほどになってしまう。なんとかしてこのミスを

誤魔化せないかと画策するのだが。

自分のうっかりミスをなんとか誤魔化したいと思うのは、誰でも経験あると思い

ます。秀則の気持ちはわかるけど、やっぱりこの場合は正直にミスを認めて謝る

べきでしたね。五木田が秀則を裏切ったと思ってがっかりしたのだけど、ラストの

オチを読んで唖然。これで五木田にとっての最悪の事態は避けられたのだろう

か・・・。

 

『忘却』

孤独死した隣人の死因は熱中症だったらしい。随分前に隣人に来た電気代未払い

通知を届け忘れていた武雄は、後悔に苛まれることに。しかし、暑かった先月の

電気代が三千円ほど安かったことを不思議に思った武雄の妻が、エアコン修理に来た

電気屋にその旨を話すと、隣人に関する意外な事実が判明して――。

アパートならではのセコい犯罪ってところがやけにリアル。本当に、こういうこと

する人はいそうです。信頼していた人間に、こういう風に裏切られていたというのは

やりきれない気持ちがしますね。隣人の死は、因果応報というやつだったのでしょう。

 

『お蔵入り』

映画監督の大崎は、ベテラン俳優の岸野の最高のシーンを撮り終え、手応えを

感じていた。しかし、岸野のクランクアップと同時に、彼に纏わる不穏なニュース

が持ち込まれる。岸野に薬物使用疑惑がかかっているというのだ。岸野が逮捕

されたら映画はお蔵入りになってしまう――大崎は、岸野を呼び出し事の真偽を

問いただすが、岸野は薬物使用を認め、自暴自棄状態になってしまう。その態度

に腹を立てた大崎は、ベランダから岸野を突き落として殺してしまう。映画の

お蔵入りを避けたい大崎は、その場にいた岸野のマネージャーとプロデューサーの

森本と共謀して、岸野はその場に一人でいたと口裏を合わせることに。しかし、

その後思わぬ証言者が現れてしまい――。

出演者の不祥事で映画がお蔵入りになるかも――という展開は、つい最近も

同じような話題が芸能界にあったばかりだったので、妙な符合にドキリとしました。

伊○谷友介とか伊藤○太郎とかね。タイムリーすぎでしょ、と思いました^^;

特に前者の方はまさに薬物使用でしたしねぇ。現実では映画に罪はない、という

ことで、公開になりましたけども。ただ、不祥事はともかく、監督が殺人犯したのに、

映画公開しようとしちゃダメでしょう。ラストは当然の帰結だと思いました。

 

ミモザ

料理本がベストセラーになり、サイン会が開催されることになった私の元に、

元不倫相手の瀬部が現れた。あの頃とは立場が逆転したことに若干の優越感を

覚えた私は、サイン会が終わると彼の待つ向かいのビルのバーに向かった。

久しぶりに会った瀬部は、奥さんとも別れ、仕事も辞めてボロボロになっていた。

極めつけは、私の収入を知りたがり、挙げ句金の無心をしてきた。これが最後と

思って三十万を貸したが、それが私の運の尽きだったのだ――。

どこまでもしつこい元不倫相手の瀬部のキャラが嫌で嫌で仕方がなかった。気持ち

悪くて。でも、主人公も周りからちやほやされるようになって、ちょっといい気に

なっているところがあったんでしょうね。腐ったものを捨ててくれる夫が、最後

豹変するところが怖かった。元不倫相手も『腐ったもの』と見なしてどうにかする

のかと思って戦々恐々としていたのだけど、そこまで救いのない展開ではなかった

です。ま、この後どうなるかはわからないですけどね・・・。主人公がマンションで

目をそむけていた清掃員が、ああいう風に伏線になっているとは。上手いなぁと

思いました。