ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

「あなたとなら食べてもいい 食のある7つの風景」(新潮文庫nex)

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食をテーマにしたアンソロジー。出来にはちょっとばらつきがあったような気が

しますね。「女による女のためのR-18文学賞」を受賞された方が多いだけに、

女性の内面心理に長けた作品が多かったかな。食に纏わるものというくくりは

あるものの、その切り口も各作家さんそれぞれに違っていて、個性が出ていた

ように思います。ちょっとピンと来ないものもありましたけど。好きな作家さん

のは概ね良かったかな。

では、各作品の感想を。

 

千早茜『くろい豆』

不倫の不穏さに、黒い枝豆を持って来るところがなかなか上手いな、と思いました。

見た目は歪だけど、味は抜群に上手い黒い枝豆。(不倫という)背徳的な恋愛には、

甘美な味がつきまとう、という暗喩なのかな、と。ただまぁ、そうはいっても、

結局主人公がやっていることは不倫でしかないので。好感持てるお話ではなかった

ですけどね。

 

遠藤彩見『消えもの』

テレビドラマのロケで使われる筈だった『消えもの』のエクレアが消えてしまった。

一体誰が盗んだのか?こういう立場の人間が、こんな動機でエクレアを盗むって

ありえますかねぇ・・・。こんなものに嫉妬しているようじゃ、今後大成することは

ないんじゃないかしらん。

 

田中兆子『居酒屋むじな』

これは一番ピンと来なかった。改行が少ない文章も読みにくいし、中心となる

居酒屋むじなのおかみさんの弟の性格も最後までよくわからなかったし。オチも

結局何が書きたかったのかよくわからなかったです。弟の波乱万丈な人生を

描きたかったのでしょうけど・・・うーん。

 

神田茜『サクラ』

売れない女優を続ける40歳のイズミは、名前を売るチャンスとして雑誌の

ダイエット企画に意欲を燃やしていた。しかし、蓋を開けてみたら、雑誌に

載ったイズミの記事の扱いは酷いもので――。

これは前半、40女の愚痴三昧の内面に辟易したのですが、整体師の青年と朝の

ウォーキングをするうちに、心も身体も健康になっていく、という展開が良かった

ですね。ラスト、ああいうオチになるとは思わなくてびっくりした。ひとりで

頑張って来たイズミさんに幸せが訪れて良かった。

 

深沢潮『アドバンテージ フォー』

大学のテニスサークルで久しぶりに集まったアラフォー女性4人。それぞれのライフ

ステージを生きている4人は、食事を楽しみながら近況報告し合うのだが――。

アラフォー女性同士の醜いマウント取り合戦に辟易。特に、専業主婦の智恵の

自慢話にはその場にいた仲間同様、私もうんざりでした。こういう人っています

よね・・・。でも、表面的には羨ましそうな素振りをしながら、そういう智恵を

見下している主人公の性格も良いとは思えなかったですが。智恵に見下されていた

バツイチの恭子が、最後に一番美味しい立場になったというのが何とも皮肉だなと

思いましたね。結局、最終的にはこういう人が一番幸せになったりするんだよね。

 

柚木麻子『ほねのおかし』

12年ぶりに再会した幼馴染の佳織ちゃんから、「父親の骨を預かって欲しい」と

頼まれた私。仕方なしに承諾し、ほねとの共同生活が始まるが――。

さすが柚木さん、一筋縄ではいかない話を書いて来ますねぇ。人間の骨を、ほねの

おかしと対比させるところもすごい。あんまり想像したくはないけど^^;主人公が

だんだんと骨との共同生活に愛着が湧いて行くところが、そら恐ろしいような、

滑稽なような。ラストに幼馴染ふたりで作るアップルパイがとても美味しそうだった。

 

町田その子『フレッシュガム ー『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』番外編ー』

これが読めただけでも、このアンソロジー読んだ甲斐はあったかな、と思う。

できれば、もうちょっとページ数多いと良かったけど。お気に入りだった啓太君の

その後が読めたのは嬉しかった。芙美さんも出て来たし、石田さんとのラストも

良かった。っていうか、もっとこの続きが読みたいです。続編書いて欲しい~。

 

好きな順で言うと、町田さん→神田さん→柚木さん→千早さん→深沢さん→遠藤さん

→田中さん かな。

若干食い足りなさを感じたものもありましたが、バラエティに富んだ作品集でした。