ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

「あなたの涙は蜜の味 イヤミス傑作選」(PHP文芸文庫)

イヤミスばかりを集めたアンソロジー第二弾。第一弾は読んでいたような気がして

いたのですが、調べてみたら未読で、第二弾から読む羽目になってしまいました^^;

まぁ、アンソロジーだから別にどうでもいいっちゃいいのですけどもね。

テーマはイヤミスですが、一言でイヤミスといっても、その内容はさまざま。

とりあえず、読後に嫌な後味が残るのが選者の細谷氏の考えるイヤミスの定義

だそうで(この定義に関してはいろんな意見があるもよう)、いろんなタイプの

イヤミスが集まっておりました。確かに、それぞれにイヤ~な気持ちで読み終える

ものばかりでした。まぁ、イヤな気持ちになりつつも、切れ味のするどい傑作

揃いだったと思います。上手いからこそ、よりイヤな気持ちになる・・・とも

云えそうです。この手のイヤミスは、心が荒んでる時にはあまり読みたくないです

けどね~・・・(気力が削られていく・・・)。

 

では、各作品の感想を。

辻村深月『パッとしない子』

これは既読でした。人気絶頂のアイドルが、過去の教え子だったことが自慢の

小学校教師の話。改めて読んでもイヤな話でしたねぇ。本人は悪気がなくても、

子供時代はパッとしなかったなんてあちこちに言いふらされていたら、そりゃ

ムカつきますよね。淡々と当の教師の過去の過ちを本人に告げる青年の憎悪にゾッ

としました。

 

宇佐美まこと『福の神』

自分の願いと引き換えに、誰かが不幸になる・・・しかも、それを叶えてくれるのが、

見た目も冴えない、単なるおばさんっていう、なかなかシュールな設定。まぁ、

本当にこのおばさんの力なのかはわからないままですが。誰かを蹴落としてまで

自分が幸せになりたい、という強欲さというものは、きっと誰の心にも潜んで

いるものなんでしょうね。

 

篠田節子『コミュニティ』

これは、個人的には今回収録の作品の中で一番嫌悪感が強かったです。息子の

アトピーをきっかけに、ローンで買ったマンションを売って公団住宅に引っ越して

来た夫婦。この団地に住む人々の間にはある秘密があって――という作品。

はっきりいって、私だったら絶対こんなところに住むのは無理。生理的に無理。

他人とこれだけ馴れ合うっていうのも無理。ただただ、気持ち悪くて悍ましい

物語だった。イヤミス度はこれがMAXだったなぁ。

 

王谷晶『北口の女』

最初読み終えて、これ、イヤミスかなぁ?って思ったんですけど、確かに

主人公がラストに置かれた境遇を考えれば、間違いなく救いはないですね。長年

付き合って来たわがままな演歌歌手から開放されたという意味で、付き人である

主人公は自由を得たとも云えますが・・・あのラストの一言ですべてが引っくり

返りましたね。主人公は、実の○に見捨てられたってことですもんね。今までの

献身は何だったんだ、って虚しくなりました。今後の主人公の人生が心配です。

 

降谷天『ひとりでいいのに』

割りとありがちな双子間の憎悪の物語・・・かと思いきや、ラストでなかなかの

反転があり、面白かったです。お互いにお互いが大嫌いな双子・・・そして、

お互いに殺意を持っている。人間はないものねだりなんだなぁというのが良く

わかりました。でも、一番の悪人は、二人を裏で操っていた人物でした。オーダー

メイドの靴という小道具が効いていましたね。

 

乃南アサ『口封じ』

完全看護の病院で付添婦をしている孝枝は、秘かに担当患者に嫌がらせをしている。

そんな孝枝の子供が、駄菓子屋で万引きをしたと、駄菓子屋の女房が近所の大学出の

世話焼き主婦と連れ立って言いに来た。孝枝は適当に聞き流したが、内心面白く

なかった。すると、後日、孝枝の病院にその時の世話焼き主婦がある病気で入院する

ことになり――。

最近のニュースを見ると、孝枝のような人間って世の中にいっぱいいるんだろうなぁ

と鬱々とした気持ちになります。児童の虐待もそうだけど、自分の立場を利用して、

弱者に対して憂さ晴らしをするような人間っていうのが。孝枝のような人間の悪が、

きちんと粛清される世の中であって欲しい。そうじゃなきゃ、自分が利用する時

どうしたらいいの。

 

宮部みゆき『裏切らないで』

これが収録されている『返事はいらない』は、遥か彼方昔に読んでいることは

間違いないのですが、当然ながら昔すぎて全く覚えていませんでした。

銀座の画廊に勤める若い女性が歩道橋から落ちて亡くなった。事故か自殺か、

はたまた殺人か。警察は、彼女が住むアパートの住人に話を聞くのだが。

こんな理由で殺されてしまった被害者が哀れでした。ただ、被害者の見栄っ張りな

性格にも辟易しましたけど。この年代の子だと、雑誌に出て来るようなおしゃれな

生活に憧れるものなんでしょうね。自分ってものが何ひとつ感じられなくて、

どうにも好きになれなかったです。だからといって、殺されていいはずがない

のだけれど。人間の妬みは怖いなぁとしみじみ思わされる作品でした。