ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

凪良ゆう「神さまのビオトープ」(講談社タイガ)

未読の凪良ゆう作品を減らそうキャンペーン!ということで、文庫版が新着情報に

載っていたので、予約してありました。評判良さそうだったので、読んでみたいと

思ってたんですよね。思ってたのと全然違うお話でしたけど^^;

大好きだった夫の「鹿野くん」を突然の事故で亡くしたうる波。現実が受け入れ

られないまま告別式を終え、呆然としているうる波だったが、目の間に鹿野くん

の幽霊が現れる。幽霊だろうが構わないと、夫の幽霊と暮らすことに次第に慣れて

行くうる波の前に、いろいろな愛の形で悩む人々が現れて――。

一話目の、鹿野くんの後輩・佐々くんと千花ちゃんカップルのお話は、なかなか

衝撃的な展開で面食らわされました。千花ちゃんもああいう結果になるとは

思わなかったのかもしれないですが・・・女の嫉妬は恐ろしい。彼女は一生この

罪を抱えて生きて行くんだろうな、と思うと、それも背筋がぞっとしました。

タイムカプセルに佐々くんが入れたものをもっと早く知っていたら結果は

違っていたのかな。それはそれで皮肉な結末だと思いました。

二話目の、うる波の家庭教師の生徒である春くん、秋くんのお話は、ちょっとした

騙しの手法が使われていて、私もまんまと騙されました。こんなに精巧でしゃべりも

流暢なロボットが存在するというのは、少し近未来のお話のようにも思えますが。

春くんのラストが切なかった。秋くんの未来の願いが叶うといいと思う。

三話目の、うる波の絵画教室に通う生徒である金沢くんと秋穂ちゃんのお話は、

二人どちらにも好感持てなかったです。青年と少女という組み合わせは、『流浪の

月』を彷彿とさせますが、あの二人とは正反対の二人って感じでしたね。どちらも、

自分のエゴでしか相手を見てない印象。恋に恋する稚拙な二人。どちらの本性

にも辟易させられました。金沢くんみたいな性癖の人は少ならからず存在する

のだろうけど、正直、やっぱり良い印象は持てないな。これも偏見なのかもしれ

ないですけども。

四話目の、うる波の学校の生徒の立花さんと安曇くんのお話が、四つの中では

一番好きでした。なんか、こういう少女マンガ読んだことあるなーって思いました

(笑)。お互いに素直になれないところがもどかしかったな。安曇くんは見た目は

地味だけど、今回出て来た男性キャラでは一番好みのタイプだな。うる波は鹿野

くんと似てるって言うけど、私は鹿野くんより好きだなぁ。鹿野くんは、なんだか

掴みどころがなさすぎて。いや、もちろん幽霊だからってのは関係なく。性格の

部分ね。安曇くんは、飄々としてるけど、一本芯が通っててブレないところが

いいな、と思いました。立花さんは見る目があるね。二人の恋の行方は、個人的

にはうる波の予想が当たっていてほしい。鹿野くんは、不穏なことしか言わない

から、そういうところも好きになれないと思いましたね(金沢くんと秋穂ちゃん

に関しては当たってましたけど)。

今回、一番びっくりしたのは、ラストで明らかになる、うる波の近所に住む

感じの良い西島さん夫婦の秘密の部分。誰にだって秘密はある、というのはこういう

意味だったんだな、と溜飲が下がりました。

タイトルのビオトープというのは、安息の地、という意味なんだそう。よく、

めだかのビオトープとか言うけど、そういう意味だったんだー!と初めて知り

ました(アホすぎ)。さらにウィキペディアで調べたところ、日本語に訳すと

生物空間となるらしい。生物が生息する空間ってことですね。ということは、

本書のタイトルは、神さまが居わす(生息する)空間って意味になるのかな。

作者がどういう意味でつけているのかはちょっとよくわからないけど。神さま

がいる世界に、わたしたちも生息しているって意味かな。みんなそれぞれに、

その世界で生きている。

うる波は結局、幽霊の鹿野くんと一緒にいることだけが、自分の中の現実なんだ

ろうな。でも、私ももし、うる波と同じ状況になったら、幽霊でもいいから

一緒にいたいと思うかも。いや、やっぱり怖いかな!?一人になるのも怖いし

悲しい。幽霊でも夫と一緒に暮らせるのは幸せなんだろうか。うる波はいつまで

鹿野くんの幽霊と一緒にいられるのだろう。この先の二人のことを考えて、

切ない気持ちになってしまう。うる波の世界に、ずっと鹿野くんがいられますように

と願わずにいられません。