ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

スーパーエッシャー展

東京・渋谷 bunkamuraザ・ミュージアム
< スーパーエッシャー ある特異な版画家の軌跡 >

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誰もがその版画を一度は眼にしたことがあるであろう版画家、マウリッツ・コルネリス・
エッシャー。そのエッシャーの版画家としての軌跡を辿った展覧会 < スーパーエッシャー展 >
に行って来ました。初期の作品から、死の直前に製作された作品まで、幅広く展示されてます。
その展示数たるや、約160点。かなり混んでいたので、じっくり観ると結構時間が
かかりました。一作一作思わず見入ってしまう作品ばかりなので余計。

初期作品は割と普通のデザイン画っぽい作品が多く、そこから南イタリアに触発され
南イタリアの風景をそのまま写し取ったような細密な版画を多く製作しています。その辺りの
作品もなかなか見ごたえがありましたが、やはり目を瞠ったのは後期にかけての平面と立体の
正則分割に始まり、騙し絵に至るまでのエッシャーだけが持ちうる二次元と三次元の融合
の世界。
絵という平面の概念を根底から覆すような空間の歪みや、現実ではあり得ない立体の繋がり
を表現した画を観ると、自分のいる世界が足元から崩れて行くような不思議な感覚に包まれ
ます。どの作品を観ても、画の中からエッシャー自身が観ている側の人間の戸惑いを眺めて
楽しんでいるような稚気を感じました。もちろん、その細密さにも圧倒されましたが。


< 昼と夜 >。
中央で二分割された昼と夜。昼の部分には黒い鳥、夜の部分には白い鳥、そしてその
境目が一体どこにあるのかわからない曖昧なシンメトリー。一枚の画の中にある昼と夜の
コントラストがなんとも面白く、二次元と三次元の境目に頭がくらくらしてくる。
風景と鳥の境目、空と鳥の境目、黒い鳥と白い鳥の境目・・・エッシャーの凄さが凝縮された
一枚。
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< バルコニー >
岸壁に建つ建物の群景を描いた作品だが、突如中央裏側から丸い球体を押し込んだような
歪みが出現する。凸レンズで覗いたかのような不思議な丸みを帯びた建物はどこかいびつで
物の膨張や誇張という概念を感じさせる。エッシャーは球体に映ったものの姿を描くのが
好きだったようです。
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< 滝 >
これはエッシャーの最も有名で優れた作品の一つと云えるでしょう。
永遠に流れ続ける滝。落ちる滝の水が流れる水路を辿っていくと、何故かまたもとの高い
滝に戻っている。ただし、その仕組みを一つ一つ辿るとあり得ない空間が存在することに
気付く。滝は一体どのようにしてもとの流れに戻るのか。永遠に解けないパズルを提示された
かのような落ち着かない居心地の悪さと不気味さを感じる。それでも魅入ってしまう。

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あと、エッシャーの他の作品に比べて地味ですが、「24の寓話画」の絵はどれもとても良かった。
これだけで1冊の本にしてもらいたいくらい。一緒に書いてある対象物目線の言葉も面白かった。


展示の見せ方もかなり凝っていて、タッチパネルの併設など、エッシャーの世界を実際グラフィック
で表現して体感させてくれるところなどは非常に面白かったです。エッシャーの版画というのは
まさしくグラフィック的な画なのでしょうけど、そんな技術がなかった時代にあの画風を見出した
エッシャーという人はやはり稀代の天才と云えるのではないでしょうか。
びっくりしたのは、個人個人に手渡される作品解説の機械が任天堂DSだったこと。時代は
どんどん進化してるんですねぇ。でも、実はこれ有料だと思っていたので借りなかったのですが、
無料貸し出しだったらしいですね・・・あーあ、借りとけば良かった~^^;;


不思議なエッシャーの世界。異世界への入り口に是非踏み込んでみて下さい。
(’07/01/13まで開催)