ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

西尾維新/「傷物語」/講談社BOX刊

イメージ 1

西尾維新さんの「傷物語」。

高校二年の終業式の夜、阿良々木暦は四肢が千切れ、瀕死の姿の吸血鬼、キスショット・アセロラ
オリオン・ハートアンダーブレードと衝撃の出会いを遂げる。自らの死を覚悟し、彼女を助けるべく
その身を差し出した暦だったが、目が覚めると自らが吸血鬼となっていた。暦は人間に戻るため、
失われたハートアンダーブレードの四肢を取り戻すべく三人の敵と戦うことに――『化物語』の
主人公・阿良々木暦に起きた春休みの出来事とは?青春の痛みを描いた現代の怪異譚。


あんまり周りに読んでる人がいなさそうな西尾さん。私も正直苦手な作家だったのだけれど、
お薦めされて読んだ『化物語』があまりにもくだらなくて面白かったので(褒めてます)、その
前日譚と言われたら読まない訳には行きません。前作で何度も意味深に出て来た『春休み出来事』
がこれを読んでやっと理解できました。時系列的にはこちらが先の話になるので、こちらを読んで
から『化物語』を読むのも良さそうです。

作者が『120%趣味で書いた』と断定するだけに(ちなみに『化物語』は100%趣味で書いた
小説だそう)、今回もくだらないギャグやノリツッコミ満載。しかも終盤には完全にSMエ○小説か!
とツッコミたくなる、女子どん引きシーンも盛り込まれて、読者を飽きさせません(引くか喜ぶか
はその人次第(笑))。ただ、今回は前日譚ということで、前作のヒロイン戦場ヶ原ひたぎ
神原といったキャラ立ちの濃かったキャラが登場しないので、前作の飛びぬけた勢いみたいなのは
控え目だったように思います。それでも、本書では素晴らしいヒロインっぷりを発揮した羽川翼
のおかげで、充分面白く読めました。彼女の天然っぷりは唖然を通り越してもう天晴れですね。
それにしても、ここまで翼と濃い関係を築いたというのに、何故暦は彼女のことを好きにならな
かったのか。それが最大の謎ですね。この作品から読んだ読者は間違いなく、この後二人はお互いに
恋愛感情が芽生えると思うでしょう。まさか、一月も経たないうちに暦に新たな出会いがあって、
そちらに流れて行くなんて・・・多分翼にとっても青天の霹靂だったのでは・・・彼女の方は
絶対暦に気がある感じだったもの。パンツとブラまで取られ、暦の要求したエロエロコント(^^;)
にまでノリノリで付き合ってあげたというのに。全く、酷い男だな、阿良々木暦。まぁ、でも、
本書で男性読者のほとんどは羽川ファンになるのではないかなぁ。男性はこういう女の子に弱い
気がするぞ。

三人の刺客との戦いは正直拍子抜けって感じの結末だったけれど、この作品のキモはそこでは
ないと思うので、こういうライトさでちょうどいいのかも。それより、その後のキスショットとの
エピソードがなかなか感動的だったし、忍野が演出した結末も確かに冒頭から断言しているように
バッドエンドには違いないけど、それなりに納得できる終着の仕方だったので、読後感はそんなに
悪くなかったです。

まぁ、要するに、非常に面白かったです。うん。やっぱりこのすべり気味のギャグやノリツッコミ
がツボみたいです、私。自分でも意外なんですけどね。『偽物語』は図書館が入れてくれるか
わかりませんが(今のとこ入れてくれてない模様^^;)、また開架で発見したら迷わず手に
取ってしまうんだろうな・・・。

ただ、一つ難点は、この講談社のBOXシリーズ、読んでると角が当たってすごく痛いこと。
表紙にカバーがないってこんなに読みにくいのかと思いますね。図書館本には箱部分が
ついてないから、どうも製本自体貧弱に感じるし。あんまり読む食指が湧く装丁とは
言えないんだよね。

そういえば、忍野がやたらに作中でアニメ化を意識した台詞を吐くので、そんなにアニメ化
したいのかなぁって思ったら、何のことはない、『化物語』がすでにアニメ化決定してるから
だったんですね。確かにいかにも萌え系アニメになりそうな内容だもんなぁ。まぁ、さすがに
アニメまでは観る気にならないけど^^;すべり気味のノリツッコミは実際の音声で聞いた
方が面白いかもしれないですけどね。