ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

森見登美彦「熱帯」/名取佐和子「金曜日の本屋さん 冬のバニライアス」

こんばんは。寒いですねぇ。今年の冬は暖冬のハズではなかったのか・・・。
職場が寒くて、手足の冷えがひどいです。仕事ない時は休憩室ガンガンに
暖房つけて閉じこもっております・・・。


今日も二冊ご紹介。


森見登美彦「熱帯」(文藝春秋
モリミー最新作。昨日、直木賞候補になったことが報道されたばかりですね。
とてもタイムリーに記事が上げられて良かったです(読み終えたのは大分前ですが^^;)。
最初、手にとって、分厚さに若干引きました。これはなかなか読むのに気力が
要りそうだぞ、と身構えながら読み始めました。
出だしから中盤までは、とてもワクワクする展開で、ぐいぐい引きつけ
られてページが進みました。幻の小説『熱帯』に取り憑かれた人々のお話。
森見登美彦氏自身もその一人でもあり、昔読んだ『熱帯』を再び読みたいと、
古書店を探し回るものの、見つけられずにいた。すると、ある日、友人から
『沈黙読書会』という奇妙な催しの話を聞き、参加してみることに。会場と
なる一軒家の喫茶店に赴くと、いくつかのグループに分かれて話し合いが
行われていた。登美彦氏は、そのうちの奇妙なグループの読書会に参加する
ことに。すると、そこではまさに登美彦氏が探し求めていた『熱帯』について
議論しているではないか――!そこに参加していた女性が言うには、『熱帯』
を最後まで読んだ人はいない――一体どういうことなのか。一冊の本を巡って、
壮大な冒険が始まった――。
うーん、うーん、どう評価していいか迷う作品だなぁ。前半は非常にモリミー
らしいというか、幻の本を巡って冒険が始まる辺りまではとても面白く
読んでいたのだけれど、途中から作中作のような部分が出て来て、一体今の
語り手は誰なんだ?状態が続いてからは、もう、何が何やら追って行くのが
大変でした。作品の中にさらに違う作品が挿入されていて、複雑な入れ子細工
のような構成になっています。まさに、千一夜物語の中で、シャハラザードが
いくつもの物語を語るような感じ。次から次へと違う物語が出て来て、過去と
未来もよくわからないし、ファンタジーなのか現実なのかも曖昧になって、
結構頭パニック状態でした^^;そのせいか中盤から中だるみした印象が
あって、だんだんページをめくる手が億劫になって行ったりもしました。
確かに、『最後まで読み切れない本』と言われても頷けるかも・・・それを
出すために、敢えてこういう構成にしたのだとしたら、すごい作家だと
言わざるを得ないかも。でも、正直云えば、最後は惰性で読み切った感じ。結局、
『熱帯』に関してはたくさんの謎が残されたまま。ミステリではないので伏線をすべて
回収する必要はないとはいえ、たくさんのもやもやを抱えたまま本を閉じた
感じでした。結局、最初に出て来たモリミー本人も、再登場せず終わったし。
最後にまた登場するのかなーと期待していたので、そこはちょっと残念でした。
第三章辺りまでは非常に楽しく読んでいたのだけど、第四章からがらっと
語り手が変わって、作中作のような物語が始まってからがちょっとしんど
かった。この語り手が誰なのか、は終盤で明らかになるのだけれど、その
人物に関しても最後まで謎が多くて。いまだに、上手く自分の中でこの
作品が消化しきれておらず、どう捉えていいのか迷います。ある意味、
すごい作品なのは間違いないかも。モリミーの中では、一番の問題作と
なるかもしれない。今までのいろんな作品の要素が詰まっているとも
言えるかも。
作中で重要なアイテムとなる『千一夜物語』ですが、はるか昔に多分、一巻
だけ図書館で借りて読んだことがあると思います。この機に読破を・・・
とは、さすがに思わなかったですけどね(苦笑)。
直木賞どうなりますかねぇ。確かに力作なのは間違いないですし、
なってもおかしくはないと思いますが・・・直木賞だからと手にとった人
には、賛否両論分かれそうな気がするなぁ(モリミーファンなら称賛の方が
多いとは思うけど)。


名取佐和子「金曜の本屋さん 冬のバニラアイス」(ハルキ文庫)
シリーズ四作目にして、最終巻。最後まで読んでも、これが最終巻だと
わかってなくて、あとがき読んで終わりだと知って衝撃を受けました。
確かに、あの二人の関係に変化があったことは間違いなく、そこを
終着点としたのも頷ける話ではあるんですが・・・できれば、そこから
先のお話も読んでみたかった。倉井君が、就職に関してああいう決断を
するとは思わなかったです。でも、<金曜堂>を守りたいという一心からの
決断なので、応援したい。倉井父の構想が実現化されるかどうかも
わからないし、実現化されたとしても<金曜堂>がそこまで窮地に
追い込まれるかどうかだってわからない。それでも、すべてのリスクを
想定して就職先を決めるという、倉井君の決意の強さに心を打たれました。
それだけ、槇乃さんや<金曜堂>のみんなのことが大事ということ
なんでしょうね。
しかし、倉井君の母親のキャラクターは意外でした。いろいろと
ツッコミ所が満載な人ではあるけど、悪い人ではなさそうでほっと
しました。それでも、幼い子供を置いて出て行った無責任さにおいては、
擁護する言葉もないけれど。出て行った理由にはただただ唖然。
そんなの、子供育てながらだってやろうと思えばできるじゃん!と
叫びたくなりました。さすがに、倉井君が可哀想だ・・・。でも、
そんな経験があっても、まっすぐに育ってくれて良かったです。
この作品で出て来た北村薫さんの『スキップ』ですが、私自身は
あまりいい印象がないんです。というより、倉井母と同じで苦手な
作品だった。といっても、理由は全く違って、ただただ主人公が
好きじゃなかったからって理由なんですが。どこがダメだったのか、
細かく覚えてないから今読んだらどう感じるかわからないのですけど。
この作品が好きになれなかった為、続く『ターン』『リセット』は未だに
読んでいないのですよね。三部作、改めて読み直してみるべきかしらん。
最後は素敵な終わり方で良かったです。槇乃さん、カワイイなー。
ジンさんを忘れることは一生出来ないと思うけど、倉井君となら
幸せな未来が築けそうですね。
もっともっと<金曜堂>の物語が読んでいたかった。またどこかで
再会出来たらいいな、と思います。